約 541,872 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3345.html
惚れてまうやろ~! そのウチ唇でもキスしちゃうパターンの奴や! あま~い! 甘いよ、甘すぎるよ。新婚一年目ぐらい甘いよぉ の続編です。 「うっし! じゃあ今日もヨロシクお願いいたします」「きょ、今日も……『アレ』やるの…?」「え? だって練習に付き合うって言ってくれたじゃねーか」「そりゃ…そう、なんだけどさ……」上条から目を背け、早くも赤面してしまう美琴。それもその筈だ。何せ今から、あの地獄のような【うれしくもはずかしい】練習が待っているのだから。確かに上条の言うように、「練習に付き合う」とは美琴から言い出した事だ。そうしなければ上条が自分以外の女性を相手に『練習』してしまっていたかも知れないし、何より美琴自身も、その『練習』を何度も味わいたかった。だが想定外の事が二つあった。それは『練習』の破壊力と頻度である。一発一発が非常に重く、心臓が爆発する勢いの衝撃があるというのに、それをほぼ毎日だ。学園都市で『七本の指』に入る実力者と言えども、内側からの攻撃(?)には流石に脆いのである。その上、日に日に『練習』の破壊力が高くなっている。それは上条が『練習』の成果として、徐々に練度が増している…というのも原因ではあるが、それ以上に美琴の『防御』も甘くなっているのである。何故なら―――「んじゃやるぞ? 『俺様キャラ』の練習」「ひっ!? ひゃ、ひゃいっ!!!」何故なら練習を重ねれば重ねる程、美琴は上条に惹かれてしまっているからである。慣れてしまえばどうという事もなくなるのだろうが、これに慣れるには相当の時間がかかりそうだ。 ◇数日前、上条は「モテたい!」との切実【アホみたい】な理由でキャラチェンジを試みた。転職先のキャラは、ナウなヤングギャル達のドキをムネムネさせるという、イケイケゴーゴーな『俺様キャラ』だった。これをマスターすれば、脚がグンバツでパイオツがボインなイカしたちゃんねーと、ザギンでシースーも夢ではないらしいのだ。「そ、それで今日は…ど…どんな練習するのよ…?」指をモジモジさせながら、ぼそっと呟くように尋ねる。すると上条は腕を組みながら「んー…」と考え、暫くしてからこう答えた。「今日は日常生活っつーか…普段通りの事をしながら、 その合間に『俺様』な上条さんを挟んでみようかと思います」「日常生活…?」言われてもピンときていないようなので、上条は例を出す。「例えば、いつもみたいに手を繋ぎながら一緒に帰るとするだろ?」「ななななっ!!?」例題がおかしい。まず、いつも手を繋いでる訳ではないのだが、上条はそんな事もお構いなしに美琴の手を取る。「けど、ここからが違うんだよ」「は! はわ! はわわわわわわっ!!!」ここ『からが』も何も、ここ『までも』既に違うのだが、残念ながら、今の美琴にツッコミを入れるだけの心の余裕は無い。上条は目をグルグルさせている美琴の手をグイッと引っ張り、抱き寄せる。そしてそのまま、お互いの鼻先が付くか付かないかという距離で、とどめの一言。「いいから俺に付いて来いよ」美琴の顔が、「ボフン!」と音を立てて爆発した。しかしそれだけでは終わらない。上条の「とどめ」は二段構えだったのだ。普段の彼ならば絶対にしないであろうが、一つキャラが乗っかっている事で、多少の大胆行動にはブレーキが利かなくなっているようだ。上条は掴んでいる美琴の手にそっと―――「……チュ…」「っっっ!!!!?!?!!?」―――そっと口付けした。それはどちらかと言えば『俺様』ではなく『王子様』なのだが、残念ながら、今の美琴にツッコミを入れるだけの心の余裕は無い。 ◇上条と美琴は、第7学区のふれあい広場にオープンしている、クレープハウス「rablun(らぶるん)」に来ていた。いつか美琴が先着100名様のゲコ太マスコット、その最後の一個を手に入れた【ゆずってもらった】、あのクレープハウスである。普段通りの事をする、と言っても、いつもはあのまま雑談しながら一緒に帰るだけなので、俺様キャラの練習も兼ねて、少しだけ寄り道したのだ。上条は右手に持ったチョコバナナを一口かじりながら、「ほら、美琴の分」左手に持っていたクリームチーズベリーを美琴に差し出した。「あ…あり、がと……」先程の二段構えの「とどめ」が相当効いたのか、美琴は未だにふわふわしていた。ポケ~っとしながらクリームチーズベリーパフェを受け取り、そのまま「はむっ」と口に含む。クリームチーズの濃厚な味わいとラズベリーの爽やかな酸味が口の中を―――なんて、今の美琴に味なんぞ分かる訳がなかった。広場のベンチにちょこんと座り、俯いたままモソモソそしゃくをしているが、この状況で脳が別のお仕事にいっぱいいっぱいらしく、味覚まで手を回してくれていないのだ。そんな美琴の現状を知ったこっちゃないと言わんばかりに、上条は俺様キャラを練習するべく攻めてきた。「おい美琴。お前のパフェ、一口くれよ」「………え?」ふいにそんな事を言われ、素っ頓狂な返事をしてしまう。「ええええええええええっ!!!?」一拍置いて、その言葉の意味を理解し、美琴は声を荒げた。先程の手にキスも中々どうして高度だったが、今回はそれ以上だ。何しろ今度は、「だだだだって! これ! わ、わわ、私もう一口食べちゃったしっ!!!」間接キスだから。手にキスよりも簡単ではないか、とお思いの方も多いだろうが、しかし考えてみてほしい。手にキスはロマンチックだが【ケツがかゆくなるが】、キスした部分が口に付く訳ではない。対して間接キスは、自分が口を付けた部分に相手も口を付ける…つまりイヤらしい言い方だが、『粘膜接触』が起こるのだ。自分の唾液が、少なからず相手に感染るのである。以前、佐天とは何の気なしにそれをやった訳だが、相手が上条では話が違う。友人なら気兼ねはしないが、好きな人が相手では、その意味合いが大きく変わるのだ。が、上条は相変わらず気にした様子もなく、「いいんだよ。お前の物は俺の物、俺の物は俺の物なんだから」俺様の代表格でもある、ジャイアニズムを披露する。「だから美琴自身も俺の物な」「んなっ!!!?」しかも、こんなとんでもない事まで言ってくる始末。一度冷静になって、その言葉の意味を深く考えてほしい物である。上条は、自分で言った「美琴自身も俺の物」発言で固まっている美琴を横目に、当たり前の様に彼女が握り締めているパフェをかぶりつく。「…うん! こっちも美味いな」「がっ! が、かっ!!?」上条の言葉が耳に届いているのかいないのか、固まったまま口をパクパクさせている美琴。上条も流石にマズいと思ったのか、練習中の俺様キャラを解く。鈍感な上条は、今の美琴の態度を不機嫌な状態だと思ったようだ。「いや…悪かったよ。確かに調子に乗りすぎた。 ほら、俺の分のも一口食っていいから機嫌直せって」キリッとした表情から一変して、いつもの気だるげな表情に戻る上条。少し困り顔をしながら、自分のチョコバナナパフェ(勿論、食べかけ)を差し出してくる。「っっっ!!!!?!?!!?」それはつまり、間接キスである。しかも今回は先程と違って、「される側」ではなく「する側」だ。そして唾液は「感染する側」ではなく、「感染される側」になる。その瞬間が、この日の美琴にとって最後の記憶となったのだった。あの後美琴がどうなったのかは、上条ただ一人だけが知っている。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3328.html
あま~い! 甘いよ、甘すぎるよ。新婚一年目ぐらい甘いよぉ モテようと思って、イメチェンしようとしてる男がいたんですよ~ の続編です。 美琴は一度ゆっくりと深呼吸した。そしてそのまま自分の頬を両手で「パチン!」と叩き、自らに気合いを入れる。これから始まる猛特訓に最後まで耐え抜く為だ。「…よし!」と一言だけ言いながら、目を見開き前を見据える。厳しい能力開発を受け、レベル5となった彼女を以ってしても、そこまでしなければならない『特訓』とは、一体如何なる物なのだろうか。「じゃ…じゃじゃじゃあっ! 今日もアアア、アンタのその…イメチェン化計画! 始めるわよっ!」「おう」ただし、特訓するのは美琴の方ではなかったようだが。 ◇『上条イメチェン化計画』…その名の通りの計画【ちゃばん】である。実は以前、上条は「このままモテないのは嫌だ」とかふざけた事を抜かして、今の自分を変えるべくイメチェンしようとした。上条が挑んだイメチェンは『俺様キャラ』へのシフトチェンジだったのだが、美琴はその実験台にされてしまい、壁ドンされるわ顎クイされるわ、しかも最後には、「キスは…夜までお預けな」なんて事を耳元で言われちゃうもんだから、美琴は胸を「キュン…」どころか「ズキュウウウン!」とされてしまったのだった。しかし、そんな爆弾を野放しにはできない。放っておいたら自分以外の犠牲者が出るかも知れない。なので美琴は、この戦いに自分一人だけで挑むと心に決めたのだ。決して『俺様』な上条を独り占めしたい訳ではない。美琴本人が言うのだから間違いないだろう。 ◇と、いう訳で。「じゃ…じゃじゃじゃあっ! 今日もアアア、アンタのその…イメチェン化計画! 始めるわよっ!」「おう」今日も特訓(笑)が始まるのだった。「でで、で!? …今日は一体…な…何をするつもりなのよ…?」「今日は…そうだな。キザったらしい台詞でも練習してみようかな」「キザ…?」「ああ」上条が言うには、「口に出すのが恥ずかしい事」を言われると女性は喜ぶのだそうだ。また少女マンガか、もしくは三流の女性誌でも読んで、おベンキョウでもしたきたのだろう。情報源も怪しいが、その情報その物もどうなのだろう。「口に出すのが恥ずかしい事」を言われると女性は喜ぶ…との事だが、それ完全に「ただしイケメンに限る」ではないだろうか。しかも、(アンタ割と普段からキザな事とか言ってんじゃないのよ!)である。しかし上条は無自覚なのだ。美琴は軽く肩を竦め、手のひらが上になるように右手を差し出して「続きをどうぞ」のポーズを取る。すると上条は「お言葉に甘えて」とばかりに、美琴の目の前にずいと立った。「ひゃいっ!?」と美琴が声を出すのと同時に、上条は親指で美琴の唇をスッと撫でる。そしてクスッと笑い、一言。「……美琴の唇って柔らかいんだな。思わずキスしたくなっちまうよ」瞬間、「ボヒュン!」という音と煙を出しながら、美琴は真っ赤になった。やはり俺様条さんの破壊力はハンパない。「どう? どう? 俺、今かなり恥ずかしい事言ってみたんだけど!」「いや…あにょ……け…結構なお手前で……」頭をフラフラさせながら、何故か茶道のような受け答えする美琴。成功した(?)上条は気を良くし、次の実験を始める。おもむろに美琴の背中に手を回し、そのまま抱き寄せたのだ。 「にゃにゃっ!?」と美琴が声を出すのと同時に、上条は抱き締めた腕にギュッと力を込める。そして美琴の耳元で、ボソッと一言。「…悪い…美琴が可愛すぎたから、つい……」瞬間、「ボバーン!」という音と煙を出しながら、美琴は真っ赤になった。やはり俺様条さんの破壊力は以下略。「今度のは!? 今度のは、どうだった!?」「あああ、あのその、よ、よよよ、よかろうもん!」背筋をピンと伸ばしながら、何故か博多弁で受け答えする美琴。神奈川生まれ学園都市【とうきょう】育ちのクセに。「良し! じゃあ次は日常会話にキザな台詞を織り交ぜていくか!」「まっ! まだ続けるのっ!?」正直「もうやめて! とっくに美琴のライフはゼロよ!」な状態なのだが、上条はお構いなしに続ける。と言うか、美琴がそんな状態なのだと気付いていないのだ。鈍感【かみじょう】だから。「つー訳で、今から普通に会話な。はい、スタート!」「え!? や、あぇ…きょ……今日はいい天気ねー!」日常会話をしろと言われて、とっさに出てくる話題が天気の事である。ベタすぎる。しかし上条は、そんなベタな話題【てんかい】すらも肥やしにする。「そうだな…日の光がキラキラして、美琴の笑顔がより一層眩しくなっちゃったな」「ひむっ!? そ、そそ、そう……あ、きょ、今日は冬にしては暖かいものね!」「確かに…温かいな。美琴と一緒にいると心がポカポカしてきてさ」「ぎみゅっ!? えええ、ええと、あの、き、昨日何食べた!?」「今すぐ美琴を食べちゃいたいです」「たたたた食べっ!!? きょ…きょうは…そにょ……いい…てんき…ね………」「もっと甘えてもいいんだぜ…?」「ほにょ……あ、の……き、きの、う…にゃ、にゃにたべひゃ…?」「俺さ、美琴以外じゃ駄目みたいなんだ」「ひゃえ……いみゃむほろふなもりょにうおみえわぬりゃふぁふん………」「だからもう、俺と付き合っちゃえばいいんじゃないか?」………何だこれ。ツッコミどころが多すぎて面倒なので、ツッコミは各々で自由にやってほしい。「このまま美琴と一緒に……」「ちょちょちょちょっと待って! きょ、きょきょ、今日のところはこれくらいにしない!?」薬でも大量に摂取しすぎると毒になる。これ以上、上条の特訓に付き合い続けると『どうにかなってしまいそう』なので、美琴は一時中断を提案した。「え、あ…そう? まだまだ用意してた台詞はいっぱいあったんだけど」「いや、いいから! それは、ホラ…また明日って事で!」「んー…そうか」若干、消化不良気味な上条ではあるが、相手役【みこと】がこれ以上やりたくないと言うのであれば、無理強いは出来ない。なのでここは上条【じぶん】が折れる。「分かった。じゃあ続きは明日にするか」「ホッ…」その一言に安堵する美琴。しかし最後に上条からの止め【サプライズ】が待っていた。去り際に上条は、最もシンプルで最も破壊力のある一言を試してきた。「あ、そうだ。美琴………愛してる」心臓が跳ね上がった上条が「どう? 今のドキッとした?」と聞こうとした矢先、美琴はついに『どうにかなってしまった』のだった。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/610.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/fortissimo とある超電磁砲の卒業式(番外編) 温かい風、青い海、殺風景な自然の景色。そして、別室から聞こえる楽しそうな鼻歌。 大波乱だった卒業式から一週間、あの場は白井が用意した閃光弾によって波乱が広がる前に脱出。その後、妹達(シスターズ)の活躍により、どこからか持ってきた学園都市の最新の小型旅客機(超音速旅客機は使用中であったため、奪取不可だったらしい)で、学園都市を脱出。しかも徹底してか、学園都市の超能力者、御坂美琴の名前が知られている可能性があった海外ではなく、沖縄にある地図に載っていない名前のない小さな島にほとぼりが冷めるまで隠居することとなった。 と、いっても上条が聞いたのはあくまで大雑把な説明だけだ。それら細かいことについては、複雑でとても面倒なことになっているのだろう。この件で動いた妹達や白井、その他上条の知らない人物たちは、今度はこの件の鎮圧に向けて動いている。なにせ、メディアや政府の前での発言だ。そう簡単には終わらない。 それに学園都市の上層部の方での動きも気になるところだ。下手をすれば、二人は追放され、最悪学園都市からの能力者たちに追われる身だってありうる。このような状況下では二人は静かにしているのが一番の手助けであった。 それを思い出していると、上条はふとしたことを思い出した。 「そういえばアイツ、『命を狙われても、当麻と一緒なら構わない』なんて言ってたな」 まったくと上条は苦笑いして、窓からの景色を見た。 それほどまでに美琴の決意は固かったのだろう。上条はそれに関しては一切口を挟む立場ではいられなかったので、何も言えなかった。だが本心はとても嬉しい。でも、好きになった美琴を傷つけるのはやはり忍びなかった。 「もしそうなったら…アイツを」 上条は自分の右手を見て、握りこぶしを作った。誰かを守るために使う能力、幻想殺し(イマジンブレイカー)をもしかしたら使うのかもしれない。そう考えると自分の命に代えてもやるしかないと決断するしかなくなるのだろう。多分、そうなれば美琴は……、とそこで考えを打ち消した。 この右手はどんな異能も打ち消す能力がある。魔術だろうが科学だろうが神の奇跡だろうが、打ち消すことが出来るはずだ。だが同時に神の加護や運命の赤い糸すら打ち消しているのではないかとも、今はイギリスに戻ってしまっているシスターは言っていた。 だからもしも、戦うことになって結果として負けたら、神の加護も赤い糸の奇跡もこの右手に打ち消されてしまう結果ではないだろうか、と今度は別の考えを思いついた。 「何を考えてるんだ俺は」 上条は自分の両頬を叩いて、目を覚まさせる。少しばかり考えが散ったようなので、別のことを考えてみた。 上条と美琴がここに来て、そろそろ一週間。すっかりと住み慣れてしまった小屋は、美鈴が買い取ったものだと聞かされている。が、この島の中では一番新しいものであるようなので、買い取ったと言うよりも建てたに近いイメージがあった。もっとも、中は古めかしい小さな小屋であったが。 ここではパソコンや携帯電話が普及していなければ、テレビもない。情報は全てラジオだけらしく、来た当初は意外と不便に思えた。 しかも生活面ではスーパーもなければ、本屋も飲食店すらない。それらは全て船で一時間かかる、別の島に行かなければないそうだ。これが一番不便であったので、買い物は何日分かをしっかり計算していかないと無駄になったり、足りなくなったりと一人生活をする上条ですら、いつも以上に入念にメモを取っていく必要があったほどだ。 だがそれらを除けば、ここはある意味天国なのかもしれない。学園都市とは比べ物にならないほど静かで、景色も綺麗。事件もおきなければ能力を使う必要もほとんどない。あと個人的には勉強しなくてもいい、という考えもあったが帰ってからが地獄なのでこれは省いた。 そして最後に、一番重要なこと。それは二人の関係だった。 ここは老夫婦や田舎者の人間で構成された島だ。ゆえに世間では常識であることも、少しばかり抜けていたりする。それが海外ではなくこの島を選んだ理由でもある。しかし、ここには若者は何人かだが存在する。その若者が、学園都市の超能力者(レベル5)である御坂美琴を知らないとは限らない。 学園都市は毎年行う大きな行事のたびにテレビ中継や『外』の人間の侵入を許している。そして、そのたびに注目されるのは、やはり頂点クラスの超能力者たち、つまり美琴であるわけだ。 ひとたび彼女が自分は御坂美琴と言えば、常識的な若者ならば有名人と会うのと同じである。そうなればその人から噂となり、噂は周りに広がっていき隠居の意味もなくなる。そのため、御坂美琴という名前を隠さなければならなかった。そのために行ったのは、 「上条夫婦……と」 つまり今の美琴は"御坂"ではなく"上条"。この島では上条美琴として生活しているのだ。 そして、正規の夫婦生活ではないものの一週間近く、なんだかんだで文句はあったがこの生活がとても楽しく、仮初の幻想にするには惜しい生活のように思えてきた。だがそれもあと明日までの話であることを、上条はまだ知らない。 学園都市のような高層ビルばかりたつ光景とは裏腹に、ここの光景は自然の緑と青い海しかない。来た当初は、比べてみると寂しいものであったが、もう一週間も経つとこの光景にも慣れてしまい、むしろこれぐらいでちょうどいいとすら考えてしまう。 上条は小屋の窓辺から外を見ながら、そんなことを考える。すっかりと住み慣れちまったなと苦笑いしながら、真っ暗な外の光景を見ながら、ここに住むこともいいかもと、まんざらでもないことを思っていた。だが自分と美琴はまだ学生だ。結婚するにも様々な問題もあるが、学生同士である二人はまだ勉学の課程を全て終えていない。そんな二人はまだ結婚するのはまだ早い。 しかし、ここは違う。ここでは学生も左右されなければ結婚も左右されない夢のような場所。といっても、それは仮初の幻想であるため、それもそろそろ終わる。でも、上条はこの幻想を酷く気に入ってしまっていた。自分の右手には幻想を殺す能力が宿っているはずのに。 そんな自分に自嘲しながら、上条はよっと息をするのと同じような気軽さで立ち上がると、部屋を抜けて、ある場所に向かう。 廊下を歩き、居間の隣にあるのは台所。そこには楽しそうに鼻歌を歌いながら、夕食を作る少女がいた。年は上条よりも年下、部屋着の短パンに半そでTシャツの上にエプロンをつけ、顔は幼さがまだ残るがはとても可愛らしい。いつも髪留めを止めている短髪は今日に限っては何もつけていない。 「あ、あなた」 「だ、だからそれはやめろ! 今日は俺と美琴だけだろう」 「えーいいじゃない。やってみたことだったしー」 「そんな可愛らしい顔しても騙されないぞ。それにもう言っただろうが」 頬を少し膨らませ怒っているぞと主張するが、上条はそれを無視して、美琴が作っているものを見た。 「おっ。これはなんですか?」 「なんで敬語なのよ。それは鰤よ、ぶ・り。町の漁師さんからもらったやつよ。ほら、今日当麻も行ったでしょ?」 「ああ、これが鰤か。上条さんは初めて見ましたよ」 何言ってるのよと美琴は笑うと、綺麗にカットされている鰤を醤油とミリンが混ざられたボロボロの鍋の中に入れる。そんな鍋にと上条は思ったが、食器は少ないので文句は言っていられない。それに美味しければ文句はないので、特に何も言わなかった。 「照り焼きにするんだけど、本場となるとなかなか請ってるわね。まあ簡単にそろうスーパーと比べたら、ここの人はしっかりしてるわ」 「でもこの島じゃ仕方ないだろう。食材を分けてくれるだけでありがたいんだしな」 「へー当麻もそんなこというんだ」 「誰かさんとの生活はすっかり慣れちまったからな。しかも本格的な"夫婦生活"だったら余計に…って、どうした?」 「あ……そ、そうよね」 美琴は赤くなりながら、歯切れ悪く答えた。嬉し恥ずかしいとはこのことなんだろうな、と思いながら上条を見ると本人はよくわかっていない。美琴は何も気づいていない上条を見て、ため息をつきたくなったがもうなれたことだったのでやめた。 「それにしても上条美琴って、なんだか、な……」 「い、いきなり何よ!? み、御坂の方がいいの?」 そうじゃなくてだな、と今度は上条が歯切れ悪そうに言う。そして、わずかだが顔が赤くなっていることに自分で気づくと、言うのが一気に恥ずかしくなった。 「そうじゃ……なくて、だな」 ここまで言ったら言わなければならないのはわかるが、言うのが少し恥ずかしい。でも、気になって首をかしげる美琴が甘えるような目でこっちを見ている。さりげなく、言うことを促しているようだった。 うっ、と思いながら上条はそっぽ向く。面と向かっていえないことであったので、今は恥ずかしさを防ぎながら言う最高の手段であった。そして、重かった口を開けて、美琴に言った。 「す、数年後には……籍も入れてるから……その、御坂じゃなくなってるかな……って…だな」 「………………………」 「お、俺が言いたいのはだな………う、嬉しいというか……その、不幸じゃなくなる…というかだな…その」 「………………………」 「け、結婚後みたいで…その……し、幸せな家庭を先行で体験できる……というかだな………って、美琴?」 「………………………」 「え……っと……」 念のために右手で美琴の手を握っておき、おいと肩を叩いてみる。すると、美琴は糸が切れた人形のようにばたりとこちらから倒れてきた。それを受け止め、上条はもう一度おいと肩を叩いた。 「………………ふにゃー」 「俺も苦労が無駄だった。不幸だ」 美琴を抱きながら、上条はため息をついて肩を落とした。結局、自分の頑張りは気絶した美琴には聞いてもらえなかった。 台所の火を確認し終え、上条は気絶してしまった美琴を背負って隣の居間に移動した。 二人には大きすぎる居間は、美琴を寝かせるには十分な余裕があった。だが右手を離せないので、片手で寝かせるのはなかなか難しい。ゆっくり降ろしたのはいいものを、右手が制限されていたので左手でゆっくりと身体を倒してやり、最後に頭の後ろを押さえながら頭を床につけてやった。 ふぅと一息ついて、上条も尻餅をつくと途端に緊張からの疲れが精神に襲い掛かってきた。 (よく頑張った! よく理性を保った、俺) 自分で自分を褒めながら、上条はぼろい天井を見上げて心を落ち着かせた。背負った時のやわらかい感触や髪のいい香りは、理性を破壊する悪い毒だ。決して嫌なものではなく、むしろ嬉しいものではあるが、やはり男としてはそんな毒にあたりっぱなしになるのは色々と複雑であった。 「とはいったものの、一線越えちまったし……って、何思い出してるんだ、馬鹿!!!」 落ち着いてきたところで、上条は何日か前の夜に、一線を越えてしまった出来事を思い出してしまった。 ふとしたことでやってしまった大人の遊び。不純異性行為に一発で引っかかることをやってしまったあの夜の出来事。今思い出すと、自分はものすごいことを何年も早く行ってしまったのだなと複雑な心境であった。 上条自身はそれに後悔はないが、それでも世間の目はやはり気になった。美琴の純血を奪い、誰かさんの仲間入りとはいかないまでも、誰かさんにロリ容疑をかけれられてもおかしくないことを上条と美琴はやってしまったのだ。 (はぁー不幸ではないが、色々と複雑な心境です) 誰に語るでもなく、上条は顔を赤くしながら自分の心境に心の底でため息をついた。 「……あれ?」 「!!!! おおおおおおおおはようみことさん!!!!」 そんなコンディション最悪状況で美琴は目を覚ました。咄嗟に上条は右手を引っ込めると、視線を逸らしながら起きた美琴に挨拶した。された美琴はとりあえず、おはようと言うと、何があったかを思い出し始める。 「えっと、確か台所にアンタが来てそれで…………ッ!!!!」 そして思い出すと、一気に顔を真っ赤にして、両手で顔を隠しながら上条に背中を向けた。もっとも、これは上条にも好都合であったが、起きてから上条の顔を見ていない美琴はそんなことも知らない。 美琴も上条も、お互いに恥ずかしいことを思い出して、しばらく真っ赤になって動かない。落ち着きのある小動物のように待機する様は、初々しさが全開に溢れている。もちろん、そんなことも知らない二人は、これをどう妥協すればいいのかも、頭に回っていなかった。 (どうするんだよ!! あの時のことを思い出したら、あいつの顔見れねえ。と言うよりも、なんで今更見れねえんだよ!) (あ、アイツに結婚のこと言われちゃった。それって、もう結婚前提ってことでしょう? で、でも鈍いからアイツのことだから…も、もしかしたら………でも、鈍くても結婚のことは意識するだろうし……ああ、なんなんのよ!) お互いパニックになりながら、どうすればいいのかわからずにいた。皮肉なのはお互いに考えていることは別のことであったが。 (どうするよ、俺! このままでは色々とおかしな方向に行きそうだし……こ、こうなったらいつもみたいに謝れば) (け、結婚する…とは言ってたけど……でも……えっと……ああ! もう、こうなったらこう言うしかないじゃない!) そして、お互いに共通の結論をつけると、勢いよく後ろを向いてお互いに向き合うと、二人は同じ言葉を同時に言った。 「ごめん!!」 「ごめん!!」 息が合った声は綺麗に一つになり、下げた頭もほとんど同時の位置に下がっている。以心伝心でもしてるのかと思うぐらい、鏡に映し出されたようにお互いはお互いの行動を真似ていた。 「……あれ?」 「……あれ?」 さらにはおかしいと気づく声も、顔を上げるタイミングと顔の位置すらも綺麗にあっていた。本当に鏡のように動いている二人は、この現状をよく理解できずにいた。 「えっと……どういうことでせうか?」 「わ、私にもよくわからないわよ。アンタにはわからないの?」 「わかっていたら聞きませんと、上条さんは混乱しながらお答えします。ということは美琴さんもわからないのですね」 「え、うん。私にもわからないわ」 「………………」 「………………」 また何があったかわからずしばらく放心する二人。 上条も美琴も一体何に謝られて自分は何をしたのかわからない状況であった。だが積極的な美琴は、この状況下で先陣を切ってさきに説明を始めた。 「私は……その、結婚を前提に付き合ってると知らなくて……それでさっき言われて気づいたから。い、今まで気づかなくて…ごめん」 「……………あー」 話の内容が飛躍しているようだが、考えてみればそうだなと気づいた上条は、赤くなりながら言葉を濁す。美鈴にもう婚約オーケーの返事ももらっていたし、ここで生活するにも上条夫妻というのも慣れてしまった。それに、上条は美琴と結婚するのはまったく持ってお願いしますと自分でも結婚する気でいる。 それらは全てのここの生活で生活した上での結果であった。それにお互い相思相愛かつ将来を認め合うもの同士だったので、結婚には何の疑問を持っていなかった。 それでも面と向かって言われると鈍感な上条でも、言葉は理解できるし恥ずかしいとも嬉しいとも感じられる。もちろん、美琴も同じ気持ちだった。 「えっと…あ、あってるわよね?」 「そのだな。怒らないでくれよ美琴。上条さんは今、美琴に言われてそのお付き合いでいきましょうと、改めました」 「~~~~~~~あああああああああああああんたは!!!!!」 「はい。上条さんはまったくそんなことを考えておりませんでした、はい」 上条は素直に美琴の考えを否定したが、言われて結婚前提での付き合いで行こうと結論付けた。当然、それまで無自覚だったので美琴に言われるまでまったく気づかなかったのだが。 一方の美琴は、考えがまったく違っていたことで自分が自爆したことがとても恥ずかしなり、両手を覆って半分泣いた。このとき、初めて恥ずかしさで泣いた美琴である。 「うぅ~~~~~~~ばぁかぁー!」 「そんな可愛らしい声で言われましても困るんですが、いかがせよと姫」 「それぐらい考えなさいよ、馬鹿!!!」 穴があったら、なんてものではない。この恥ずかしい悲劇の部分の記憶を失いたいと思うほどに、美琴は恥ずかしかったのだ。 (あ~~~ばかばかばか! 私の馬鹿! アイツも馬鹿だけど私も馬鹿!!) 告白をするのを失敗した時とは別の自己嫌悪をして、美琴は今度は頭を両手で抱えて落ち込んだ。 (えっと………落ち込んでる、んだよな? こういった場合は………) 様々な変化をする美琴を見ながら、この後どうすればいいのか悩んだ。両手で顔を覆うわ、頭を抱えて小さくなるわ、忙しい変わり方をする相手にいかがせよと、誰かに助けを求めたいが残念ながらここでは誰にも求められない。 どうしたものか、と勉強をする時以上に考えながら腕を組んでうーんと唸る。美琴はそんな上条に気づかず、自己嫌悪に自己嫌悪と掛け算をするようにドンドンおかしな方向へと落ちていく。 (うーん、落ち込んでいる女の子の慰め方……と言ったら、これ……しかない、よな?) 上条は立ち上がると、小さくなっている美琴のそばによる。そしてぎゅっと、 「あっ…………え?」 美琴の身体を思いっきり抱きしめた。 「えっと、泣いてる女の子を抱きしめるってのはマンガの王道的展開と言いますか、上条さんはマンガ通といいますか…」 「あ、あの………えっと、その」 「美琴さん、これではダメ、でせうか?」 上条は恥ずかしさを堪えながら、小さな声で訊いた。本当はこうやっている上条が一番ドキドキと緊張しているのだが、美琴はそんなことにも気づかず、この状況をどうすればと考え始める。 普通ならば、抱きしめ返す部分であるが混乱した思考はそんな普通の返答を求めていなかった。逆にもっと過激で、嬉しい方法を探す方向へと考えを進め…そして、小さな声で言う。 「…………す」 「へ? なんだって?」 「だから、そのままキスしなさいよ、馬鹿」 赤くなりながら美琴は言う。もちろん、言われた上条はさらに真っ赤になったのだった。 「んっ……ちゅっ」 「んん………こ、これで、満足ですか姫」 こくんと小さく頷く。上条はそうですかと緊張しながらも答え、抱きしめた腕を離そうとした。が、今度は上条が抱きしめられた。 「えええええええっと!? み、美琴!?」 「うるさい。いいから黙って、抱き返しなさいよ、馬鹿」 そう言われては従うしかない上条は、もう一度美琴の身体を抱きしめた。お互いに真っ赤なまま 心臓の音を肌で聞きあいながらしばらくぼっと時間に身をゆだねた。 「………………………」 一分。 「………………………」 二分。 「………………………」 三分。 「………………………」 三分十五秒。 「えっと………い、いいですか?」 「ダメ。話すならこのまま」 美琴は抱きしめあう感覚を気に入ってしまったらしく、離れるのを嫌がったようだ。でも上条は本当は美琴と同じ。だが年頃の男であるため、長い時間抱き合うのにはさまざまな問題もあったのだ。 例えば、さきほど上条が謝ったわけ、など。 「その……ごめん」 「なんで謝られなければいけないのよ?」 「えっとですね……さっき謝ったけど、なんというかもう一度謝った方がいいと思ったから」 「そういえば、当麻はなんで私に謝ったの?」 それを言われ、上条は焦りと自己嫌悪に陥った。 (さすが上条さん! 自分で自分の地雷を踏むとは、いい雰囲気でも不幸にはなるんですねちくしょう!!!) 誰かに言うように上条は自分の不幸を呪いながら、乾いた笑いと恐怖の汗を流す。少なくとも、これから言うことは自分の命が本当に危ない発言であることぐらいは、嫌でもわかっていた。回避できるものなら回避したいが、自分だけ言わないのは不公平といわれるし、何より絶対に聞き出そうとする。 (なあインデックス。俺、どうすればいいんだ!) 数分後に転がっていそうな自分の屍を想像し、上条は今はいない修道服の同居人に助けを求めるが、来るわけはなかった。というよりは、助けに来たところで、別の惨劇になることを思い出し、上条は不幸な自分と不幸にした神様(ばか)に殺意を覚えた。だが、それで解決するほど楽な未来は存在しなかった。 「い、言わないと、ダメ……はいわかりましたいいますいいますからポケットからコインをとりだすのはやめてください!!!!」 結局、言っても言わなくても自分には地獄しか待っていない。 上条は潔く諦めをつけて、さようなら人生と思いながら、謝罪した意味を説明し始める。 「実を言いますと、先日の激しかった深夜の件を思い出しまして」 「感電死? それとも超電磁砲を撃たれて死ぬ? あ、砂鉄剣というで斬殺するって手もあるわね?」 「いやです! 死にたくありません! お許しを! 美琴様!!!」 抱擁を解き、上条は命だけは、と何度も何度も頭を下げる。 男にはプライドはあるが、命が危険になるとみんなこうなる。上条は誰かに教えるように、自分の思うと果たしてその土下座は今までに何回やったかを数えてしまいそうになったが、鬱になりそうなのでやめた。 一方の美琴は、今日一番の赤みを帯びた顔で上条を睨む。のだが、それが上条には可愛く映ってしまうのを美琴はわかっていない。 (可愛い! 怒ってるのはわかるんですけど、可愛いんですけど!!! はっ! これが萌えなのか?! って、全力で現実逃避している場合じゃないよな!!!) また混乱した思考が余計なことを考え始めた。上条は頭を振ってそれらの思考を打ち消しながら、美琴への土下座を再会する。もう謝っても許されないことであるとわかっていても、上条には許しを請うしか出来なかった。そして許す相手である美琴は死刑囚に罰を与えるだけだ。 「当麻は知らないだろうけど、すっごく痛かったし恥ずかしかったんだから!! わかってるの!!」 「と、言われましても……」 「ええ、わかってるわよ! どうせアンタは、当麻は一人で私を虐めて楽しんでたからわからないだろうけど、女の身にもなってみてよね!!」 「あの……それはさすがに…」 「確かに、嬉しかったし最後は意外とよかったけど、それでも…………その……」 「えっと…………………あれ?」 「あ、アンタが優しくしてくれるなら……いつでも……というか……喜んでくれるなら……というか」 「あれ? …………あれ、こんな話だっけ?」 話がおかしな方向へと脱線していることに安心をしたが、今度は別の予感を感じた。言うなれば、危ない爆弾を渡されるような危険な香りである。 「その、さ……私でも良かったの?」 「良かった…といいますと?」 「夜の、初めての相手が、私でも……」 「むしろ、ありがとうございます」 上条は今度はお礼の意を込めて謝る時のように何回もではなく、深々と一回土下座をした。 「そっか……良かった。てっきり、私じゃ満足できないって思ってた」 「そんなわけあるかよ! 俺を満足させられるのは美琴しかいねえよ!」 「え……?」 「あ………」 不安そうな表情をしていたので、上条はつい本音を話してしまった。 本音を話してしまったことに気づいた上条は恥ずかしさでと、本音を言われた美琴は嬉しさで、また赤くなると今度は俯いた。だが話の内容の影響もあり、お互いに顔を見ることも出来なければ、身体すら見ることも出来なかった。 俯いたまま上条は、背を向けると美琴から少しだけ離れた。自分の理性が少しずつであるが、深夜の方向へと走って言ってるように感じたからだ。それに気づいた美琴だが、何も言わず上条と同じように背を向けて離れると、重かった口を少しだけ開いた。 「今のって……」 「ん…?」 「今の話って……本当?」 「……あ、ああ」 「……………そう」 「………………………」 「………………………」 しばらく沈黙。 外に聞こえる虫の声と波の音、微弱な温かい風と心地の良い夜の涼しさ。しかし、自然という名の感触を感じる余裕は二人にはない。今二人を支配しているのは、緊張と恥ずかしさ、嬉しさと大人染みた感性だ。 上条と美琴は支配された感情の渦の中で、自分の理性だけを保っている。本能が理性を食い殺す可能性もあるにはあったが、それにはまだ一歩足らない微妙なラインであったため、おかしな行動は起こさない。だが逆に、何をすればいいのかわからずじまいの状況下であった。 そして、沈黙が続いて五分。時間のおかげで上条の精神は、だいぶ落ち着いてきを見せ始めた。一方の美琴も、上条ほどではないが落ち着きが見られてきた。 そこからさらに、三分経つと二人はほとんど同時にため息をつき、その場から立ち上がった。 「飯出来たら呼んでくれ」 「うん、わかった」 そういって、二人は別々の場所から部屋を出た。 今は顔を見ることなんて出来なかった。それは相手側にも十分わかっていた。 そして、その翌日には上条当麻と上条美琴のとある一週間は、幕を閉じることとなる。しかしこの一週間で二人の関係はより親密になり、結婚を誓い合った両者の愛はさらに育まれていくことになるのであった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/fortissimo
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1422.html
新たな年の幕開けは 1 クリスマスも過ぎ、年越しに向けて駆け足で向かっていく街の中を、御坂美琴はどこに向かうでもなくひとりぶらついていた。 とはいえ無目的に彷徨っている訳ではなく、とある人物がどこかにいないかと目を配っているのだが、その人物がいる場所に思い当たるところも無いため、当て所も無く歩き回っているのである。 冬休みということで時間を持て余した学生が同じように街中をうろついているため、ナンパ目的の男子学生にこの数日幾度と無く声を掛けられたが、美琴は視界にでも入っていないかのように受け流し、しつこい連中も前髪あたりを帯電させてみせると逃げるように散っていった。 レベル5の美琴にとってみれば、その程度の能力の行使は慣れたもので、もはや演算というほどの労力も掛からない、ただ歩くことと変わりないものである。 そのため煩わしさを感じることすらなく、目下その意識の大部分がツンツン頭の少年のことで占められていた。 上条当麻はクリスマスにどんな人と、どんな風に過ごしたのだろうか――そんな疑問と不安ばかりが胸の中に渦巻いていた。 思春期真っ只中の女子中学生である美琴も例に漏れず、クリスマスは好きな人と過ごしたい、出来るならばその人と恋人という関係にありたいという想いを抱いていた。 ましてやここは学生が人口の8割を占める学園都市。 親の目も無いため恋愛にのめり込む者も多い。 クリスマスは最早家族など関係ない、恋愛の只中にいる者達のためのバレンタインに並ぶ一大イベントとして認められている。 だからこそ美琴も、想い人である上条と何とかしてクリスマスを共に過ごせないかと、12月に入る前から悶々と頭を悩ませていた。 自分の恋心をはっきりと自覚した今では、彼のことが好きであると素直に認められるまでに成長した。 夏休みのときに比べれば格段の進歩である。 しかし初心な年頃であるため、それを表に出して肯定することなどとてもではないが出来ない。 ましてやその相手である彼に、その想いの一端でも示すことなど不可能と言ってもよい。 そのため彼からクリスマスの予定を「さり気なく」聞きだすことにさえ、およそ一ヶ月掛かってしまった。 自分にとって最悪の答えが返ってくるのではないかという不安を紛らわすために没頭して作っていた、彼へ贈るための手編みのマフラーと手袋が、先に出来上がってしまったほどである。 作り終えたときには、達成感や彼がどんな反応をしてくれるかという期待ではなく、もし渡す機会が得られなかったらどんなに惨めなことだろうという思いが先に来てしまった。 そしてようやく聞き出した答えは、「んっふっふ、御坂さんはこの上条さんが予定が無いと見越してからかうつもりだったのでしょうが、そうはいきません。24日も25日も、たくさんの女の子と一緒に過ごすのですよ。しかもイギリスからわざわざ会いに来てくれるんだから、クラスの野郎どもなんて目じゃない!」とガッツポーズをしながら本当に嬉しそうに放たれたものだった。 その瞬間美琴の頭は真っ白となったが、「ど、どうせ海外からってことはあの銀髪シスターに会いにきてるだけで、あんたなんてそのおまけでしょ」と何とか言葉を搾り出していた。 これは事前に散々シュミレーションを繰り返したおかげだったが、このときはそんなことを意識している余裕などなかった。 その後もただただ言葉を条件反射で返すだけで、その日は別れた。 それから数日はあっという間に過ぎた。 丸一日落ち込んでいたり、あるいはイブの日に黒子や初春、佐天へのクリスマスプレゼントを大急ぎで買いに行き、その勢いのままに3人と思いっきりはしゃいだりと大忙しだった。 それでもクリスマスプレゼントを買いに出たときに、彼がどこかにいないかと無意識に周りを見回していたり、3人といるときに不意に黙り込んでしまったりした。 そんなとき必ず佐天はこちらがびっくりするぐらいのハイテンションで騒ぎ、初春もそれに続いた。 心ここにあらずといった状態で、その上後輩に気遣われていたことを、ずっと申し訳なく思っていた。 そうやってクリスマスも過ぎ、26日になると、美琴は朝から街に飛び出した。 まだこんな時間に彼が外出しているわけがないと頭ではわかっていても、黒子が風紀委員の仕事に出るよりも早くに。 居ても立ってもいられなかったのだ。 大人数で過ごすのに何もあるはずがないと思いつつも、彼がどんな風にクリスマスを過ごしたのか、不安で仕方なく、想像すらしたくないと同時に、一刻も早く答えを聞きだしたくもあった。 探し回ること数日、もしかしたらもう帰省して学園都市にいないのかもしれないと思い始めた日の夕方、たどり着いたのは壊れかけの自販機のあるいつもの公園だった。(もうメールで聞いたほうがいいかしら) でもどんな風に聞き出せば自然な流れに持っていけるだろうかと考えながら自販機の前に立ったその時――「いい加減自販機に蹴り入れるのやめたらどうだ、ビリビリ」「にゃっ!?」 突然捜し求めていた人物の声が聞こえたことに心臓が跳ね上がった。 そして急いで振り返り、「ビリビリ言うな! 私には御坂美琴って名前があんのよ! いい加減覚えろ!」 怒るつもりなのについつい頬を緩んでしまう。 でも仕方ないじゃない、と思う。 冬休みにもかかわらず、いつもの場所で、いつもの時間に、そして何よりいつもと違い向こうから気付き声を掛けてくれたのだ。 嬉しくないはずがない。「蹴るつもりだったのは否定しないのかよ」「アンタも私を名前で呼ぶつもりがないのかしらね」 こらえようがない頬の緩みを、挑発するような笑みを無理矢理浮かべて誤魔化す。 ついでにバチバチッと青白い電流を全身に纏わせた。「待てっ! ビリビリ! 早まるな! 謝るから! この通り!」 上条は腰を引きながら頭を下げるが、焦りのあまり思いつくままに言葉を並べたのだろう。 それが仇となった。「だからビリビリって言うなっつってんでしょうがああああああああ!!」 今までの不安や鬱憤も乗せて電撃の槍を放つ。 しかしやはりいつも通り右手であっさりとかき消されてしまった。「ったく、いつもいつも。謝るぐらいだったらたまには当たって誠意を見せてみなさいよ」「当たったら上条さん死んじゃいますよ!?」「死ねばその馬鹿な頭も直るかもよ? どうせまた補習だったんでしょ? 新年から「生まれ変わって」やり直してみる価値あるんじゃない?」「うっ、たしかに冬休みも補習でみっちりだけど、上条さんだってやれば出来る子なんですよ!?」「どうだか~。そもそも夏休みには中学生の私に宿題を教わってたのに――」 そう言って美琴はようやく上条を落ち着いて見やったところで、美琴は言葉に詰まった。「ってちょっとアンタ! どうしたのよその傷! また何か事件でもあったの!?」 彼の顔や手の所々に、擦り傷や切り傷があることに思わず取り乱してしまった。また彼が無茶をしたんじゃないかとたまらなく心配になる。「おお落ち着け御坂! 別にどれも大した傷じゃない。それにもう治りかけてるし」「――そうみたいね。でも、一体何があったのよ」「あ~、それはだな…………」「なによ、そんなに話しにくいことなの?」 美琴が真剣な目つきで問い詰めると、上条は「うっ」と呻きながら一歩後じさった後、観念したようにまぁいいかと前置きして答えた。「26日の昼頃、白井と偶然出くわしてな。そしたら急にテレポートでドロップキック食らわせてきて、それから日が暮れるまで追っかけまわされてたんだよ」「あの子ったら…………」「もうそのときの形相といったらいつにも増して凄まじくてな。何言ってるかもよく聞き取れなかったし」 アイツを怒らせるようなことをした覚えはないんだがな~と上条はぼやいていた。(あの子は風紀委員の仕事放っぽって何やってんのよ。そもそもコイツが原因じゃなかったら単なるとばっちりになってたっていうのに) しかし、佐天や初春と同様心配してくれたからだと思うと怒るに怒れない。「…………ごめん」「え?」「だから、ごめん。きっとそれ、私のせいだから」 俯きながら小声で謝る。それはさながら、親に叱られた子供のようだった。「あ~、何で謝ってんのかよくわかんねえけど、お前のせいなんかじゃねえよ。白井の奴もまったく俺に原因がないのに襲ってくるほど見境いがないわけじゃないだろう」 そういってうな垂れた美琴の頭をポンポンと撫でる。(――コイツは~~~!) 顔が真っ赤になるのを自覚する。 嬉しい反面、無自覚に他の女の子にもやっているのかと思うと無性に腹が立ってくる。(もし私だけにしてくれたら――) そう思った瞬間、さらに頬が朱に染まっていく。 とてもでないが今は顔を上げられない。 何より心地良いために、やめたくともやめられない。 おかげでまだ上条は美琴の頭を撫で続けている。 美琴の珍しい態度を面白がっているだけかもしれず、今にも「よしよし」という声が聞こえてきそうだ。「ええい! いつまで子ども扱いしてんのよ!」(ああ、終わっちゃった) 意を決して腕を振り払い、頭を上げて上条を睨み付ける。 言葉とは裏腹に、内心は名残惜しさでいっぱいだった。 未だ耳まで熱いが、きっと上条はいつも通りの鈍感さで子ども扱いされた怒りのためと見当違いな推測をしているだろう。 ……あまり嬉しくもないが。「いや~、紳士な上条さんとしては泣いてる子供を放っておくことは出来ないわけでして」「泣いてなんかないわよ!」「はいはいそうですね」 わかってますよとばかりに上条は何度も頷く。本当に子ども扱いされている。「ところでアンタ、蕎麦なんか買って、もしかして今年はこっちで年越しを迎えるの?」 先ほど俯いていたときに見えた買い物袋の中から覗いていたものを思い出し、強引に話を切り替えた。「ああ、本当は帰省するつもりだったんだけど、学園都市から外出許可が出なくてな~。 しかも何故か親達の学園都市の入場許可証すら下りなかったから、今年はひとり正月なのですよ」「ひとりって――あのシスターと過ごしたりはしないの?」 胸が締め付けられる思いを隠し、平静を装って尋ねる。「『お節が食べたいんだよ!』って言って、俺の担任の先生達と一緒に外へ、大晦日から3泊4日のツアー旅行に出かけるんだよ。地方のお節料理を巡るらしい」「……あんたはついて行かないの?」「その話が決まったときに、ちょうど外出許可が出なかったから両親がこっちに来るって話に落ち着いたばかりだったんだよ。 そして両親の学園都市への入場が不許可と伝えられたのがツアーの締め切りが過ぎてからでな」 不幸だ、と上条は漏らす。 いつもは突っかかってばかりの美琴も、このときばかりは同情するしかなかった。「それなら、さ」「ん?」「私が、一緒に過ごしてあげよっか?」「…………え?」「わ、私もほら、アンタと同じで、外出許可が出なかったから母がこっちに来る予定なのよ! でもウチの母も大学で忙しいから来れるのは元旦の昼からって言ってたし! だからそれまで時間が空いちゃったから、年越しは誰か寮に残ってる人と遊ぼうかなあって思ってたところだし! その、それなら別にアンタでもいいかなって思っただけで!」「ホントか御坂!?」「うう嘘なんか言ってどうすんのよ! 私はただアンタがかわいそうというか、ちょうどいい暇つぶしになるからというか――」「どんな理由であれ誰かと正月を迎えられるのならこれ以上嬉しいことはない! いやあ、もう今から正月が楽しみだ!」 欧米でのクリスマスのように、日本では正月は家族や親族が集まって過ごすものである。 記憶がなくともそういった知識は持ち合わせている上条としては、「初めて」の正月をひとりで過ごすのは、クリスマス以上にむなしい、実感のない形だけの正月になるのだろうと落ち込んでいたのである。 そんなところに舞い込んできた美琴の提案に、上条はいちもにもなく飛びついた。(まさかこんなに喜んでもらえるなんて) 上条の思わぬ反応に、美琴は内心小躍りしたくなるほどに舞い上がっていた。「そ、それじゃあ大晦日はアンタん家に行くから! 私はちょっと用事があるからもう行くわね! 詳しいことは後でメールするから! 当日は首を洗って待ってなさいよ!」 最早言っていることが支離滅裂だが、それにも気づかぬままに美琴は駆け出していた。「あ、ちょっと待――」 そもそも上条宅を知らないのにうちに来るってどうすんだとか、寮の門限はとか気になることが多々あったが、上条がそれを言う前に美琴は走り去ってしまっていた。(言っちゃった言っちゃった言っちゃった!) 美琴は興奮のあまり歩いてなどいられず、全力で駆けていた。 もうこれ以上ないというほどに顔を真っ赤にして。 やがて息が切れるのと共に、少しだけ興奮が醒めていった。 本当に、ほんの少しだけ。(どうしよう――) ただ上条からクリスマスをどんな風に過ごしたのか聞きだすつもりが、思わぬ展開になってしまった。 しかも、咄嗟のこととはいえ嘘までついて約束をしてしまったのである。 彼と同様、外出許可が下りなかったのは本当である。 やはり、先日の第三次世界大戦の件が大きく効いているのだろう。 二人は共にその真っ只中に飛び込んだのである。 そのような人物に対して、未だ大戦の影響冷めやらぬ現在、外出許可が下りなくても不思議はない。 特に上条はその中心人物のひとりである。 両親がこちらに来れないというのも、無用の混乱を避けるためなのではないかと推測する。 学園都市としても、幻想殺しが親に引き取られ学園都市から出て行くという自体はなんとしても避けたいはずだ。 むしろ自分の母の入場が認められただけでも幸運である。 そしてその母である美鈴がこの学園都市を訪れるのは、大晦日の昼の予定。 自分で引き起こしたこととはいえ、どうしようかと頭を悩ませる。 しかし興奮しっぱなしの頭でいい考えなど浮かばない。 とりあえずはこの興奮が抜けるのを待とうと考えた。 夕食後、美琴は美鈴に電話を掛けていた。 未だこれは夢ではないかという思いがあったが、冷静に話せる程度には心臓の鼓動も収まっていた。「あらー。美琴ちゃーん、急にどーしたのー? やっぱり気になるあの男の子と急接近のチャンスが巡ってきたからその相談?」「いきなり何言ってんのよアンタは! そんな訳ないじゃない! だいたい「やっぱり」って何!?」 美鈴のたった一言で美琴の心臓はまたも跳ね上がった。 なまじ的外れとも言い難いから尚更である。「美琴ちゃんに色仕掛けはまだ早いから、私としては直接想いを伝えるのが一番だと思うんだけど」「だから違うっつってんでしょ!?」「ああいう男の子はきっと相手の好意に鈍感だから、回りくどい手は駄目だからね。もう直球ど真ん中で何度も体当たりするぐらいでないと」「話を聞けーーーーー!!!」「ちなみに当麻君が鈍感っていうのは彼のお母様の詩菜さんのお墨付きよ? しかもお父様の刀夜さんも若い頃はそうだったって聞いてるし」「ちょっと待って何その話!? 詳しく聞かせなさい! そしてもしかして知り合い!?」「あれ~~? さっきはあれだけ否定してたのに、わざわざ今話すほどのことなのかしら~? 常盤台の寮監さんてすごく厳しい方なんでしょ? あんまり夜遅くまで話してるとまずいんじゃない?」「ぐっ!」 ここでこちらが折れれば嬉々として話してくれるのだろうが、美鈴がニヤニヤと笑みを浮かべているのを思い浮かんできて、それを妨げる。 何よりあの母に対して素直に認めてしまっては、しばらくそのネタでからかわれ続けること請け合いである。「まっ、その話はお正月にたっぷりしてあげるから楽しみにしててね。 でもとりあえずは、彼に対してはストレートに行かなきゃ駄目だっていうのは頭に入れておいてね。 それで、美琴ちゃんの用件はな~に?」「…………そのお正月のことなんだけど」 今すぐにでも聞き出したいの衝動を必死にこらえ、話を続ける。 「ストレートに行く」ということはしっかりと頭に刻みつつ。「じ、実は、この前母さんの学園都市への入場は認められたけど、私の方が、大晦日の日の寮の外泊許可が下りなくて」 元々美鈴とは大晦日から2泊3日で学園都市内のホテルで過ごす予定だったのであり、本当はその許可も既に取ってある。「学生のほとんどが帰省するとは言っても残ってる人もそれなりにいるし、年明けの瞬間は外に人がごった返すから、深夜にそういうところに行くのは風紀の乱れの元だって言って。ほら、母さんも言ってたようにうちの寮監は規律にすごく厳しい人だし」「そっか~。じゃあ私は元旦に朝イチに出て、昼頃着くようにしなきゃならないのか。美琴ちゃんと一日しか過ごせないなんて残念ね」 本当に、心底残念そうな美鈴の声に美琴の心が痛む。 嘘をついてまで押し通すべきなのかと再び葛藤が生まれる。 しかし、母とはまた会う機会があるが、上条とのチャンスはもうこれしかないかもしれないのだ。 そして美琴の中での上条への想いは、既に家族に対する愛情にも劣らないほどに大きく育っている。 美琴は覚悟を決めた。「うん、ごめんね」「美琴ちゃんが謝ることじゃないでしょ。規則なら仕方ないもの」「それでね、あの、振袖のことなんだけど……」 美鈴への日程の変更とは他に、別の重要な話を切り出した。「こっちに来るとき、振袖を持ってきてくれるって話だったけど、その、大晦日に到着するように先に送ってくれないかな? 予定が変わって時間が余ったから、どうせなら着付けの練習をしてみたいな~なんて思って……」 その瞬間、電話越しに何も聞こえなくとも、美鈴の雰囲気が明らかに変わったことを美琴は確信した。 まるで鼠を見つけた猫のように。 しかし意外なことに、美鈴はからかうでもなく普通に応えてきた。「わかったわ。明日の朝、速達で送れば間に合うでしょ」「うん、ありがとう。それとね、お節を作って持ってきてくれるって言ってたけど、それ、できるだけたくさん作ってきてくれないかな? あの、寮に残ってる子達でさ、折角だからお節を作ってみようって話になって、それなら参考になる実物があったほうがいいと思うから、大変かもしれないけど、できるだけたくさん」 これも、嘘である。 美鈴には言えない、けれど本当に家族のための、嘘である。 罪悪感はあるものの、そこに躊躇いはなかった。「わ~かったわ。それじゃあ常盤台のお嬢様をあっと言わせるよう、久しぶりに腕によりを掛けてがんばっちゃうから、楽しみにしててね」「うん、本当に、ありがとうね」 新たな年の幕開けは 2 そして大晦日当日。(いよいよ決戦の時ね) 覚悟も決めた。 腹も括った。 「ストレートに行け」というアドバイスも頭に刻み込んだ。 何より、美鈴への嘘の負い目からも、もう迷わないと決めたのだ。「よしっ!」 事前に聞いておいた上条宅の住所に向けて、たくさんの食材を詰め込んだ袋を両手に抱え、美琴はどしどしと歩を進めた。 いつの間にか美琴は上条宅の扉の前に着いていた。 覚悟はしても、やはり緊張しているのだろう。 ここまでの道のりはほとんど覚えていなかった。 その勢いのままに呼び鈴を鳴らす。 その音に合わせ、美琴の心臓も一際大きな音を立てた。 もう後戻りはできない。そう思うと不安がもたげてくるが、心の中でそれを握りつぶした。「おーっす御坂――って何だその大荷物」「おっす。とりあえずこれ下ろさせて」 驚く上条を押しのけて我が物顔で上条の部屋へと入る。 そうでもしなければきっと玄関先で立ち往生したままであっただろう。「何だこれ、全部食材? 年越し蕎麦ってこんなに手の掛かるもんなのか?」「そんな訳ないでしょバカ。これはお節とお雑煮の材料よ」「何!? まさか御坂が作ってくれるって言うのか!? うちで!?」「他にこれをどうするってのよ」 何を当たり前のことを、とでも言うように美琴は呆れ顔を作った。「ああ、クリスマスに続いてなんて幸運なんだろう。もう上条さんは一生分の運を使い果たしてしまったようで怖いぐらいですよ」 なら私が一生アンタに運を与え続けてあげるわよ、なんてセリフが思い浮かんだが、口に出せるわけがなかった。 代わりにしめたとばかりに、かねてから聞きたかったことを口にした。「それで、アンタはそのクリスマスにかわいい女の子達に囲まれて、どんなラッキースケベを連発してたのかしら~?」「い、いやいやいや、紳士上条さんはそんなラッキースケベなんてこれっぽっちも経験してませんよ!? むしろあれは全部事故でそれよりも殴られたり蹴られたり投げられたり斬られたりかじられたり投げられたり燃やされたり――」「…………もういい、だいたいわかったから」 顔を引きつらせながら言い訳だかなんだかを繰り返す上条に、やっぱりこいつはいつも通りかと、美琴はただただため息しか出なかった。 でもこれなら、恋人が出来たり、特定の誰かと仲が進展したということもないだろう。 それにもし、そうであったとしても、もう突き進むしかないのだ。 過去のことなんて関係ない。 つい数日前の悩みが馬鹿馬鹿しく思えるくらいに、今の美琴は芯が固まっていた。「さて、じゃあ早速お節作り始めるから、どいたどいた」 邪魔者を追い払うようにしっしっと手を振りながら、美琴は荷物の中からエプロンなどを取り出しはじめた。「う~ん、我が家で女の子がエプロンを着けて料理をする光景をまた見られるなんて、上条さんは感動で涙が出そうですよ」(「また」って何、「また」って!) これだからこいつは、とこめかみに青筋が立つが、気にしないと決めたからにはそれを曲げるつもりはない。 次に口に出すときは、恋人の座を勝ち取ってからだと、美琴は心の中で新たに誓いを立てた。 そしてそのときになったら、首根っこを掴まえて必ず吐かせてやることも忘れずに。 美琴が顔を上げるとそこには、頻りに頷きながらなにやら噛み締めている上条の姿があった。 その手はまな板に掛かっている。「で、アンタはなにやってんのよ。邪魔だからどいてなさいって言ったでしょ」「いえいえ、まさか上条さんとしては御坂さんにすべて任せてただ待っていることなんてできませんよ」 つまり、手伝うということであろうか。(――ってことは、こいつと二人で料理!?) この時に備え幾つものパターンをシミュレーション(妄想)してきたが、さすがにこれは想定外であった。 そもそも前提からして違ったのである。パニックに陥りそうになる思考を何とか抑え、言葉を搾り出す。「それなら、とりあえず手を洗いなさい。まずはそれから」 おう、と小気味良い返事。 ただそれだけでも、美琴の心は弾んだ。 しかし、どうしようかとも思う。 美琴は、お節の作り方を人に教えられるほど慣れていない。 というよりも、数日前からインターネットや本から知識を集め、寮で何度か練習しただけなのだ。 食べ物を粗末にしてはいけないという思いから、その数とて限られている。 女の子なのだから本当は母親から直に教わってみたかった。 せめて、電話でアドバイスだけでも求めたいという思いはあった。 けれども、こと今回に関しては、美鈴に聞くのはルール違反だろうと思ったのだ。 自分で決め、美鈴に嘘をついてまで押し通したことなのだから、最後まで自分でやり遂げなければならない。 その思いこそが今の美琴の行動を支えているのである。 まさか上条が作り方を知っているとも思えない。 なら自分が何とかするしかないのだ。 それに、二人で試行錯誤するということに、甘い響きがあるとも思った。 結局のところ、お節と雑煮を2人で作り終えたころには23時を回っていた。 美琴が当初思い描いた甘い幻想とは裏腹に、実際にはテンパりながら、時に罵声を飛ばしながらの疲れるものであった。 けれども、満たされるものがあったことも否定できない。 今はようやく落ち着き、美琴は蕎麦を茹でていた。 これはひとりで十分ということで、上条は台所を離れテーブルに突っ伏している。 精も根も尽き果てたといった体である。 出来上がって美琴が振り返ったときには、上条は犬のように一心にこちらを見つめていた。(色気よりも食い気か、アンタは) それでもそんなことには落胆しないほどに、美琴の心は満たされていた。 それはもう、蕎麦などいらないぐらいに。「お待たせ」「待ってました。もう少しで空腹で死んでしまうところでしたよ」「くすっ。大袈裟ね」「いやいや、食べ盛りの男子学生があれだけ働けば当然だって」「アンタは洗うか切るかだけだったじゃない」「それを御坂のペースに合わせてやるのがどれだけ大変だと思っているんだ――っても、本人にはわからないだろうが。 でもあれだな、俺も料理経験の時間は負けちゃいないと思うが、こうまで手際に差が現れるとお前が女の子なんだなとしみじみと感じるよ」「それ、全然褒めてないわよね?」 私に対する普段のコイツの扱いからすれば、コイツの口から「女の子」という評価が出たことは記念すべきことだが、素直には喜べない。「十分すごいと思ってるよ。こんだけ料理が上手いってだけでも、将来いいお嫁さんになれるさ。旦那は絶対に尻に敷かれるだろうが」「だからアンタは一言多いのよ!」 その後も他愛もない会話が続いた。 美琴は蕎麦を味わう余裕がなかったが、食事はこれまでにないほど楽しいものだった。「いや~、美味かった。ご馳走様。これまで食べた中でも間違いなく一番美味い蕎麦だったよ」「お粗末様。でもアンタの買ったこの蕎麦、アンタのことだから安物でしょ? 大体手打ち蕎麦でもないのに、さっきから言うことがいちいち大袈裟なのよ」「どんなに安物でも、女の子の手作りってだけで特別な価値があるのですよ」(~~~~~!) コイツは自分で言っていることの中身を自分で理解しているのだろうか、と美琴は血の上った頭で考える。 少なくとも、昨日までのコイツだったら私に対してこんな言葉を掛けることはなかっただろう。 たとえ無意識であっても、コイツの認識を変えられたのなら、大きな成果である。「ありがとな、御坂」「な、何よ急に気持ち悪い!」 動揺の余り、つい元の憎まれ口を叩いてしまう。 そのことに美琴はしまったと思ったが、上条は気にすることなく続けた。「だってよ、初めての年末年始を独りぼっちで過ごさなきゃならないと思って落胆していたところを、お前に救ってもらったんだ。 それも、もうこれ以上の正月は迎えられないんじゃないかと心配してぐらい、こんなに充実した形でさ。 お前には幾ら感謝してもし足りないぐらいだよ」 その言葉に、美琴は思わず涙ぐんでしまった。 それを隠すために、美琴はテーブルに顎を乗せて上目遣いで上条を見つめた。 不安の中で努力してきたこと、その時間は短いけれど、その結果としては、望むべくもないものであった。 それは、レベル5になったときの喜びとは全く違う、とても温かなものだった。 だからこそ、何も気負うことなく、素直に言葉を返せたのだと思う。「バーカ、アンタは私と、私の9699人もの妹の命を救ってんのよ。そんな人間が何言ってんのよ。感謝してもし足りないのは、私の方よ」「それは――」「アンタは自分のためにやったって言うのかもしれないけどね、それなら私だって同じよ。 でもね、受け取る方はまた違う受け取り方をするもんなのよ」「そういうもんか」「そういうもんよ」 どちらともなく笑いが漏れる。 思えば、こうして彼と笑いあったことは、これが初めてなのではないかと思う。 今日この日のことを、たとえこの先何があったとしても、忘れることはないだろうと美琴は思った。 いつの間にか、年が明けていた。 広い敷地の中で片手で数えるぐらいしか寺社の存在しない学園都市内では、除夜の鐘が聞こえる場所は限られている。 テレビも点けていない現状では、時計を気にしていない限り年明けの瞬間を知ることは出来なかった。「明けましておめでとう」「おめでとうございます」「気がついてたら年明けを5分過ぎてたってのはなんか抜けてるな」「ふふっ、そうね。でもまぁそんなことより、早速初詣に行くわよ!」「おいおいこんな寒いのに今から行くのかよ」「当ったり前じゃない。私は明日から母が来るから、アンタと違って忙しいのよ。だから今から行くわよ」「あれ? じゃああのお節とかはどうすんだ?」「あれはアンタの分よ。私は母が作って持ってきてくれるもの。 ああ、お餅も買っといてあるから安心してね。 それとも何、私と一緒に食べたかった~?」「その方が嬉しいが、美鈴さんが来るんならそんなこと言えねえだろ。本当に、何から何まですまないな」 母が聞いたら喜んで正月をここで過ごと言うだろう。 絶対に伝えないが。「だ~から気にしない。じゃ、1時間ぐらいしたら携帯に連絡するから、それまで待っててね」「ちょっと待て! 1時間って何だ! 今から直接行くんじゃないのかよ!」「女の子にはいろいろあんのよ。じゃあ私はちょっとホテルで着替えてくるから」 了解、とげんなりとした表情で上条は返事をしてきた。 ならばそのその時間がどれほどの意味を持つのか、たっぷりと教えてやろうじゃないかと美琴は意気込み、上条の部屋を離れた。 明日美鈴と共に泊まるために今日から借りているホテルの部屋には、既に振袖など必要なものは運び込んであった。 シャワーを浴び、振袖の着付けを終え、頃合を見て上条に連絡を入れたのだが、化粧を施している間にロビーに到着したという連絡が入り、それから既に十五分は経過している。 姿見で全身を隈なくチェックしてみるが、一向に緊張と不安が消えてくれない。 これは上条の部屋を訪れたときとはまた別種のものであるが、それがわかったからといってどうしようもない。 これ以上彼を待たせるわけにも行かないだろう。気合を入れて部屋を出た。 エレベーターで一階に着くと、上条は窓の外に視線を向けていた。 その眼には退屈の二文字しか映っていないことは、後姿からでもありありと窺える。 声を掛ける勇気もなく、静々と彼の傍まで近づくと、服の裾をくいくいと引っ張った。「お前なあ、いくらなんでも人を待たせすぎじゃ――」 ようやくといった感じで振り返った上条は、文句のひとつも言いたかったのだろうが、美琴と目が合うとその言葉を止めてしまった。「……何よ、文句あんの?」「――馬子にも衣装ってのは、こういうのを言うんだな」「ア、ン、タ、はあぁーーー!!!」 上条のことだから褒め言葉と思って言ったのかもしれないが、最早確かめる気にもなれなかった。 怒りのためか、羞恥のためか、美琴の前髪から青白い電流がバチバチと弾けた。「わーー! ちょっと待て落ち着け! 折角綺麗なカッコしてんだから今だけはやめとけ」「うーー……」 顔を赤くし上目遣いで上条を睨みつけながら、頭に彼の右手を乗せられているこの状態では、この前の子ども扱いとまるで変わらない。 ここまでやってもこいつの対応は変わらないのかと、目にうっすらと涙すら溜まってきた。 だから、彼の頬がほんのり赤くなっていることには気付けなかった。「よくわからんがすまん。俺が悪かった。だからとりあえず落ち着いてくれ」 そういって上条が美琴の頭から右手を離した途端、再び彼女の頭から青白い光が放たれた。「御坂さんすみませんこの通り謝るから機嫌を直してください」「そ、そう言われても、自然と出てきちゃって……」 レベル5たる美琴にとってこの程度の電流は出すことは、大した労力も掛からずに出来てしまうため、無意識で流れてしまうことが多い。 そしてそれが、最近多発するようになってしまったのだ。 それも上条が関わるときばかり。「でも、こうすれば問題ないでしょ!」 そう言ってヤケになって美琴は左手で上条の右手を取った。 彼を睨みつけていたのが一転、恥ずかしさの余りそっぽを向いてしまった。 先ほどまで彼の部屋で和やかに過ごせていたのが嘘のように、どこか気まずい雰囲気に変わる。「こ、こうすればいいって……」「何よ、何か文句あんの!?」「イイエ、アリマセン」「ならさっさと行くわよ!」 そういって彼の顔も見ずに、上条の右手を引っ張って美琴は先導した。「――って、やっぱりこのまま行くのかよ!?」 今度はきっぱりと無視して、ずかずかと先を進んでいく。 不幸だなどと呟いたら即座に超電磁砲を叩き込んでやると考えながら。 このとき傍からは、振袖を着込んだ中学生の女の子が男子高校生を勢い良く引っ張っていくという奇妙な光景が見られたことだろう。 そのまま美琴は上条を引っ張り続けた。 ホテルから目的の神社まで十分とかからなかったが、その間二人はずっと無言であった。 その理由はひとつではないのだろうが、話し出すきっかけを見出せずそのまま時が過ぎていったのである。 沈黙を破ったのは美琴だった。「さあ、着いたわよ!」 目の前の階段と、その先にそびえる鳥居を美琴は親の敵の如く睨みつけていた。 この頃には上条にも、忙しい奴だなぁなどと思うほどには心に余裕が出来ていた。「あの~御坂さん? やっぱりこのまま入るのでしょうか?」「文句ある?」「いいえありません」 先程と同じ問答を繰り返したことで上条は諦めた。「学生なんてほとんど残ってないんだから、知り合いに会うこともないでしょうし大丈夫よ」(見知らぬ独り身の男子学生に睨まれること確実だよな) それ以前に理性が崩れそうで怖いのだが、気恥ずかしくて口には出せなかった。 美琴に連れられて階段を上りきり、鳥居の前に立った際に目に飛び込んできた光景は、およそ上条の想像からかけ離れたものだった。「……なんていうか、思ったよりも寂しいな」「アンタは学園都市の神社に一体何を期待してたのよ」「具体例があるわけじゃないけど、もっとこう、華やかだったり、賑やかなものを想像してたんだが。だって新年だぜ?」「外のおっきな神社なら屋台があったり人でごった返してたりするんだろうけど、ここじゃこんなもんよ。 だいたいこういうのは気分の問題よ」(気分……か) そう心の中で呟きながら、繋がれた手を見る。「よおし、なら張り切っていくぞ! 美琴!」「ちょっ! アンタ! いきなり!」 声を張り上げて、今度は上条が美琴を引っ張って歩き出した。なにやら後ろから美琴の焦った様な声が聞こえる。「気分だ気分!」(何で、コイツはいつもいつも……) 上条は自分を評して「将来旦那を尻に敷く」と言っていたが、それは絶対に間違いだろう。 何せ今日一日、自分は上条に振り回されてばかりなのだから。 それでも、悪い気はしないのだからどうしようもない。 そしてこのまま、この繋がれた手のように、彼が自分を引っ張り続けてくれたらどんなに幸せだろうと思う。 彼にとっては不幸をもたらす右手なのだろうが、自分にとっては間違いなく幸せをもたらしてくれる右手なのだから。「さて、賽銭箱の前に着いたけど、こういうときの作法ってどうすりゃいいんだ」「賽銭箱の前って……他に言い方もあるでしょうに。まあ、二拝二拍手一拝って言われてるけど、神様を敬う気持ちがあればあんまりこだわらなくていいんじゃない?」「んな適当な」「鳥居をくぐるとき礼もせず、お手水で体も清めずに突っ切り、道の真ん中を堂々と進んできた奴が今更何言ってんのよ」「…………そうか、毒を食らわば皿までと言うしな」「アンタはとりあえず、日本語が上達するように願っときなさい」 いよいよ参拝という段階になって、美琴は渋々上条の手を離した。 そのとき上条がどこか安堵するような表情を浮かべたことに、不機嫌が抑えられない。 鳥居をくぐる頃には能力が暴走することもないだろうとは自分でわかっていたが、上条の安堵はそのためだけではないことが窺えるためだ。 それでも神前だからと粛々とした態度で賽銭を入れ、鐘を鳴らした。 神様への願い事は今更言葉にする必要などなかった。 今、二人でこの場所に立っている。 そして今抱えているこの想いをもう一度確認する。 それだけで十分だと思えた。「なあ御坂」「……文句ある?」 社の階段から降りてすぐに、手を繋ぎなおしたら、またこれである。 三度繰り返された問答に、上条はただ首を振るだけで答えた。 そして美琴は、上条が呼び名を「御坂」と戻していることに、一層不機嫌になった。(幻想殺しの右手で神前に立つってのは罰当たりだったのかもね) 今更そんなことを思ってもどうしようもないが、まあいいかと割り切る。 元々他力本願は性分ではないのだ。誓いさえ聞き届けてさえもらえればそれで構わないのだ。「さて、じゃあ後はおみくじかしらね」「上条さんは遠慮させてもらいますのことよ」「私がアンタの右手を握って、アンタが左手でくじを引けば、少しは良くなるんじゃない?」「なら御坂さんが幸運の女神であることを期待して引いてみますかね」 人の気分を上げたり下げたり、こいつは人をおちょっくっているのではないかと勘繰ってしまう。「じゃあ俺から引かせてもらうぞ」「結果はまだ見ないでね。私が引いてから」 そして美琴も引き終えると、畳まれた紙を二人同時に開いた。「……凶か」「私は吉ね」(二人合わせてプラマイゼロ――) そんな埒もないことを夢想する。「いつもだったら大凶だっただろうから、これはきっと御坂のお陰だろうな」 大凶のないおみくじもあるわよね、なんてことも思うがそれはおくびにも出さない。「そうよ、美琴サマに感謝なさい」「だな。本当に、今日一日御坂には感謝しっぱなしだよ。これなら神頼みよりも、毎日御坂を拝んでいたほうがご利益があるかもな」「何馬鹿なこと――」 言いかけて、美琴は突如上条の右手を離し、彼に抱きついてその頭を彼の胸に埋めた。「み、御坂!?」「黙って抱きしめなさい! 特に頭!」 いきなりのことに上条の狼狽した声が聞こえるが、それに構まず彼に小声で指示を飛ばす。頭に彼の右手が、背中に左手が恐る恐るといった感じで回されるが、今はその感触を堪能している暇はなかった。 間髪入れず、今度は別のところから声が飛んできたのである。「カ、カミやん!? その女の子は誰ぜよ!?」「おー、上条当麻ー。明けましておめでとー。そっちは新年早々ラブラブだなー」 その声に、上条がビクリと震えるのが直に伝わってきた。 心音の変化すら聞き取れる状態なのだから、それはもう、美琴の全身を揺らすぐらいに。「カミやん、ついにフラグを回収したのかにゃー。これは年明けから血の雨が降るぜよ」 奇怪な猫ボイスと裏腹に、その口調は剣呑な色を帯びていた。「これは休み明けのクラスでの裁判が楽しみぜよ。それまでせいぜい生き延びてることだにゃー」「待て土御門! 誤解だ!」「この期に及んでも彼女を抱きしめたままなのに、誤解も何もないにゃー。 安心しろカミやん。こんなに喜ばしいことはすぐに年賀メールとして知り合い全員に報告してあげるぜよ。 出来ることなら写真付きといきたいところだが、そこは彼女さんに遠慮してとどめておくから、感謝するにゃー」「その方がいいぞ兄貴ー。学園都市には写真の取り扱いに気をつけなければならない人間が何人かいるから、その方が懸命だぞー」 それを聞いて、今度は美琴の体が震えた。 咄嗟に顔を隠したのに意味はなく、むしろ現状を悪化させただけだったのだ。 けれども、今更顔を上げることなどできなかった。「じゃあなカミやん。最後にせいぜい彼女特製のお節と雑煮を堪能しておくことだにゃー」 土御門兄妹の遠ざかっていく足音が聞こえ始めると同時に、上条は「不幸だ」とポツリと呟いたが、その後も二人は抱き合ったままであることも気にすることなく、茫然自失としていた。 どれだけ時間が経ったのか、口火を切ったのは上条の方だった。「お前、人を盾に自分だけ隠れるなんて、ズリィよ」「……私だって舞夏にしっかりとばれてたわよ。それも全く言い訳できない状況で」 う~~、と呻きながら、美琴は額を上条の胸に押し付け、視線を下に下げた。 その体勢のまま、美琴は上条に尋ねた。「舞夏達とはどういう知り合いなのよ?」「一緒にいた男の方が土御門舞夏の兄貴で、俺のクラスメイトであり、隣の部屋の住人だ」 終わった、と美琴は心の中で呟いた。 ということは二人を通して美琴と上条のことはすべて筒抜けになるということである。 しかも今日の彼の部屋での出来事も、会話をちゃんと聞かれていなかったとしても、状況は把握されていたに違いない。 舞夏を通して常盤台全体に、もしかしたらネットにまで飛び火することまで覚悟しなければならないと美琴は思った。 これでは、今のこの体勢と合わせても、幸か不幸かわからない。「あー、御坂? そろそろ離れていただけると上条さんはとてもありがたいのですが」「私が落ち着くまでこうしてなさい。それとも女の子を抱きしめてる状況を不満だと言うの?」「そんなことは決してありませんが、この状況をまた知り合いにでも見つかったら今度こそ上条さんの命が危ないわけでして」「アンタなんていっつもこれよりすごいことやってんだから、今更誰に見られたって何も変わらないわよ」「上条さんはそんな無節操ではありませんのことよ!?」 上条の言い訳を無視し、美琴は全身の感覚に身を委ねた。本当は隙間のないぐらい上条に強く抱きつきたいところだが、きっかけのない今からそれをすることは出来ない。 いくら覚悟を決めても、ストレートに気持ちを示すことさえままならないのだから、今のこの状況でもうあっぷあっぷだ。 それでも、頭や背中に回された腕、そして正面の上条本人から伝わってくる彼の体温は、美琴の体が火照ってくるほどに温かなものだった。「御坂ー」「もー少しー」「周りの視線が非常に痛いのですが」「男なら我慢なさい」 上条の温もりについ甘えたくなる。 一方でこの男は、気まずさしか感じていないのだろうかと思うと、不公平だなと思う。「御坂さーん」「――もう、わかったわよ」 駄々をこねる子供のような上条の口調に、美琴は満足はしていないものの、少しばかり拗ねてみせながら、上条の背に回した手を離した。「さあ、行くわよ」 離れる際に、再び上条の右手を取ったが、今度は何も言われなかった。「送ってくれてありがとね」 二人は神社を出て、美琴が宿泊予定のホテルのロビーに戻ってきていた。 道すがら、行きと同様に会話はなかったが、美琴は十分に満足していた。 神社の近くのホテルをを選んだことを悔やむぐらいに。「あの、これ」 そう言って美琴は鞄から紙袋を取り出して上条に差し出した。 美琴としては可愛らしくラッピングもしたかったが、あれ以来そんな余裕はなかったのだ。「ホントは、クリスマスに渡すつもりだったけど、機会がなかったし。でも、感謝の気持ちを示すのは、別にいつだっていいと思うから」「あ、ああ。ありがとう」 虚を突かれた上条はおずおずと受け取った。「開けてもいいか?」「うん」 そして紙袋から出てきたのは、手編みのマフラーと手袋だった。「これ、もしかして御坂が編んでくれたのか?」「もしかしなくてもそうよ」「その、本当に、ありがとうな。なんか今日は、いろいろともらってばかりで、俺は何も用意してないし、申し訳ないというか」「いいのよ。これは私がしたいからしているだけ。人の好意は素直に受け取っておきなさい」「でも――」「じゃあさ」 交換条件にするつもりはなく、あくまで「お願い」として上条に頼むつもりだったことを美琴は口にする。「3日は、アンタ暇?」「夕方までは予定は入ってないぞ」「それなら、夕方まで私に時間をくれない?」 ホテルに戻ってきてからは解いていた手で、上条の服の裾をつかむ。「妹達と、一緒に、お正月を過ごしてあげたいの」 お人好しの上条が断るはずがないと信じているが、それでも言葉に言い表せない恐れがある。 それはもしかしたら、上条に対してでなく、妹達に対する負い目からなのかもしれない。「あの子達は、そういうのを全く知らずに育ってきてるから。 大晦日からずっと一緒にいてあげたいとも思ってたけど、2日まで母が来る予定だったし、外泊の許可も2日の夜までだったから、せめて3日だけでもと思って」 そんな、言い訳みたいな言葉を連ねていると、不意に上条に頭を撫でられた。「それなら喜んで行くさ。こういうのは人数が多いほうが楽しいし、俺だって一人で過ごすよりよっぽどいい。 むしろそんなんじゃ全くお返しにならねえよ」「ううん、お返しとか、そういうんじゃないの」「そうだな」 上条の右手で撫でられている頭から、じんわりと彼の熱が体に広がっていき、それと共に体の中に巣食っていた恐れや不安が和らいでいく。「それなら、うちにあるお節持っていくか」「それは大丈夫。母に、たくさん作って持ってきて頼んだから。きっと、私が作ったものよりも、その方がいいから」「そっか」 彼の右手から伝わる労りが、一層強くなるのを感じた。あるいはそれを、慈しみというのかもしれない。 ホテルの部屋にひとり戻って、一息ついた。 高まっていた気分が落ち着き、呼吸と共に精神的な疲れも抜けていくように感じたが、一緒に体にこもった彼の熱も逃げていくようで、もったいないと思った。 今日は――正確には大晦日から、本当にいろいろあった。 新年の幕開けとしては、驚くほど波乱に満ちている。 今年は一体どんな年になるというのだろうか。 一連の行動は、今までの自分からすれば別人ではないかと思えるほど、理想(自分だけの現実)に近付いたものだった。 それはきっと、成長の証なのだろうと思う。 でもそれは、自分ひとりの力では成し得なかったことであることはよくわかっている。 有形無形の形で、いろんな人に後押しされていた。 それを今、噛み締めている。 すぐには無理だろうが、いずれ母や黒子、初春や佐天に、たとえどんな結末を迎えたとしても、しっかりと報告することが出来るだろうと思う。 でもまずは、昼からは母と、明日は妹達と、精一杯楽しんで過ごそうと思う。 そしていつか、その横に彼が一緒にいてくれることを美琴は強く願った。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1363.html
とある妹達編の後日談(アナザーストーリー) 3 「さて、と。着きましたわよ。お姉様」目的地に到着した美琴と黒子は、自販機の傍にある一脚の長椅子に腰を下ろした。相変わらず美琴の表情には生気がなく、感情にも乏しい。それでも、少しばかり、美琴の心境にも変化が表れたようだった。それは、初春や佐天のような友達でも気付かないであろうほどの、ほんの些細な変化だった。それはまさしく、白井黒子という存在が御坂美琴という存在に四六時中スキンシップを試みていた故の、結果だった。それでもまだ、つい先日までの様子と見比べると大差ないというのが、黒子の心を締め付け、痛めつける。解決する為の明確な方法を、黒子は持ち合わせていない。黒子は何も言わずに、ただただ、美琴が口を開くのを待った。10分とも、1時間とも取れるような、長く長く感じた空白の時間を経て、ようやく美琴が口を開いた。「…わ、私…」「…」「…どうしたらいいのか…分からないよ…」「…」「…アイツが、目を覚ましたことがないって知った時…目の前が真っ暗になって…何も考える事ができない…」「お姉様…」「…アイツと私の間に起こったことは…例え相手が黒子であったとしても、話せないようなことなの…」「そうでしょうね…。あれだけ初春や佐天さんと一緒に戦っておきながら、今更一人で抱え込んだという事は、それだけお姉様にとっても、私達にとっても危険な事。立場や力、のせいにはしたくありませんが、やむを得ませんわ」「…ありがとう、黒子…」「…」「…」「…」「…それでね、その一件で…私は、この世界に、学園都市に、裏切られた…」「…!!」「…自分の力で何とかしようとしても、その都度邪魔が入ってね…鼬ごっこ、とでも言うべきかしら…。…とにかく、私一人ではどうしようもなかった…」「そんな…」「…黒子には信じられない話かも信じられないけれど…。私ね、死のうって思ってたんだ」「…え…?」「…もう、この状態を解決するには自分がこの世から居なくなるしかないって、そう、思ったんだ」「…」「…そんな時にね、アイツが、私を助けてくれたのよ」「…」「…ヤメテって、こっちに来ないで、って言ったのに、私には救いなんて無いんだから、そんなに事を終わらせたければ戦えって、戦わないならアンタなんか殺してやるって言って、本気の雷撃を何発も何発も直撃させたのに、さ…。その度に立ち上がって、戦わないって、何で私が死ななきゃいけないのかって、そんなのおかしいって言ったんだ…。それでさ、心臓が止まってたかもしれないような雷撃をまともに受けて、気を失って…。私、もうアイツは死んだって、そう思ったの」「…」「だけど、アイツは立ち上がった。私の考えもしないようなところから答えを示して、ね…」「成功、したんですの?」「ええ、それ自体は…。だから、今こうやって私は生きてるわけだし」「と、いう事は…」「…そう。私を闇の中から引っ張り出すだけ引っ張り出しておいて、一人で深みに嵌っちゃったのよ、アイツ…」「…そ、そんな…」「…私ね…まだ…『ありがとう』も、言えてないの…」「…」「…『ありがとう』って言って、またアイツと勝負したり、売り言葉に買い言葉でケンカしたり、したかったのにな…」黒子にとって、衝撃的な会話であった。美琴が死をも覚悟した、上条が美琴を助けた、そういった言葉が耳に流れてくるたびに、黒子の心は痛み、歯痒く思った。また、美琴の中に居る上条の存在感が、最早自分ではどうしようもないくらいに大きなモノになっていたことも、黒子の心を掻き乱した。前々から、美琴との会話を上条が占めるようにはなっていたが、流石にここまで来るともうどうしようもなかった。時が立てば解決するだろう、という甘い目論見は、脆くも崩れ去る事となった。何故なら、上条に対して敵対心を持っている黒子でさえも、上条の存在が美琴にとってのヒーローに映ったのだから。状況は既に八方塞、自分ではどうすることも出来ない状態に陥り、自らに残った選択肢は『死』のみ。そんな状況のところに颯爽と現れて、自分の能力の持てる力全てを解き放った一撃を受けてもなお立ち上がり、事態を収束させたのだ。こんなのはご都合主義的に仕組まれたモノと相場は決まっているはずなのに、それを平然とやってのけたのだ。ただでさえ少女趣味な美琴が惹かれないわけがない。ましてや、その相手はかねてから美琴が話題にするアイツこと上条当麻だ。これは最早、運命と言う名の赤い糸で結ばれているなんてロマンチックな事を言ったとしても、誰も疑う余地は無いだろう。黒子は思う。もしかして、いや、もしかしなくても、美琴は上条に恋をしているのであろう。でも、恐らく美琴は気付いていないし、黒子もそれを気付かせるつもりはなかった。この感情は、人を縛り付けるものになりかねないということを、黒子は知っている。この感情は、人によって様々な模様を描く事も、黒子は知っている。そして何よりも、この感情は、人に言われて気付くものではないと、黒子は知っている。「お姉様…それは、とても辛いですわね…「黒子…」「まだまだ、あの殿方とお姉様にしか分からない事の方が多いのでしょうけれど、それも仕方ない事、なのでしょうし」「…」「ですが、お姉様、夏休みはあと一週間ありますの。その間に、しっかりと殿方…上条さんとの思い出に浸り、上条さんが何時目覚められてもおかしくないように、目覚められた時にはいつものお姉様が見せられるように、ご尽力下さいまし」「…」「九月に入れば、学舎の園も通常営業に戻ります。きっと、様々な方がお姉様をご心配になられると思いますの」「そう、よね…」「ですから、学舎の園ではいつものお姉様であって欲しい、と黒子は思いますの。その代わり、学び舎の園を一歩出れば、そこから先はお姉様の動きたいように動いてもらって結構ですの」「…!!!」「私から事情を掻い摘んで初春や佐天さん達にはお話しておきますわ。きっと、初春たちなら協力してくれると思いますの。ですから、日常生活の範囲では、私達が精一杯をお姉様をサポートしますの」これが、黒子に出来る、精一杯の約束だった。それでも、美琴の涙腺は我慢の限界を突破してしまったらしい。黒子は、顔を両手で押さえて大声を上げて泣く美琴の正面に回り、その華奢な体を力強く抱きしめた。黒子のサマーセーターが、まるで大雨が降っているかの如き勢いで濡れていく。しかし、今の黒子にとって、そんな事はほんの些細な出来事にしか過ぎなかった。どれ程の時間が経っただろうか。黒子がふと、空を見上げると、既に太陽は完全に昇りきっていた。美琴は一頻り泣きじゃくった後、今に至るまでてグッスリと眠っている。精神的な疲労も重なっているのだろうか、時折苦しそうな表情を浮かべる顔に、黒子の心は痛んだ。黒子は自身の膝の上に美琴を寝かしていた。いつもなら、こんな降って沸いた状況を逃がすわけが無いのだが、流石に今日ばかりはそうもいかなかった。相変わらず人通りの少ない公園ではあるが、それでも何時何が起こるか分からないことに変わりは無い。今、自分は何をするべきなのか。美琴に対してどう振る舞い、接していくべきか。そして何より、今、この状態を打破する為には、どうするべきか。黒子の導き出した答えは、単純だった。今のお姉様を街中に出すのは賭けに近い。あれだけ上条の事を気にしているのだ、自然と足が病院に向かうはずだし、その後の展開は最早想像に難くない。それならばいっそのこと、暫く寮内で隔離の方が良いのではないか、と黒子は思う。割とアウトドア志向の強い美琴を寮内で拘束し続けるのは難しいかもしれないが、現状との選択であれば止むを得ない、といったところだろうか。そうと決まれば話は早い。黒子は、直ぐに寮監に電話を入れ、美琴と共に寮に戻る旨を告げた後、自分の持てる能力を最大限に活用して、寮へと歩を進めた。寮へ戻った黒子はその足で美琴を自室へと送り、そのまま事情を説明する為に寮監室へ。美琴はその覚束ない足取りのまま自分のベッドへと倒れこむと、そのまま頭から布団を被り、その中で体を丸めた。美琴は、その後の夏休みの間、一度も自室から出ることは無かった。ただただ、布団の中で体を丸めて、無力感や虚脱感に絶望感といった負の感情に支配された自分の心に、ひたすらに苛まれ続けていた。~経過報告~~さる8月21日より当院に入院している患者、上条当麻であるが、依然として意識は回復していない。脈拍や呼吸などは非常に規則的であり、特に目立った外的損傷は見られないため、回復には時間の経過を見守るしかないものと思われる。尚、数日後に一時データの取れなかった時間帯が存在しているが、これは患者を見舞いに来た後、一時的に精神に変調をきたした能力者の影響であるものと思われる。その能力者であるが、精神に偏重をきたした翌日、同居人の手を借りて帰宅した後、消息が掴めておらず、学園都市内での目撃情報も一度として無い。寮の自室に篭りきりになっていると思われるが、詳細は不明。~月が変わった。今日は9月1日。学生にとっては夢のようだった夏休みが終わり、いよいよ二学期が始まるのだ。時期、の話をするのならば、うだるような暑さから開放され、身を縮こまらせるしかなくなる冬へと向かう、そんな時期。もっとも、学園都市に居る大多数の生徒は、能力者で有る無いを別にして、新学期に胸を膨らませていた。そう、二学期といえば、行事である。今月の大覇星祭を皮切りに、(誰もが嫌がる中間試験を挟んで)11月には一端覧祭、(これまた嫌がる期末試験を挟んで)12月にはクリスマスが待っている。そういった個別の用事を抜きにしても、部活動を嗜む生徒は最上級生が去った後の新体制のスタートでもあるし、最上級生は最上級生で自分の輝かしい未来を切り開く為の努力を始める時期でもある。学園都市のあちらこちらで、生徒が一生懸命に何かに取り組む姿が次第に目に付くようになる。そんな時期なのだ。しかし、そんな学園都市の青々とした空に似た明るい展望を持った生徒達の中で、一人極寒の地へと心を飛ばされたままその心が戻ってきていない少女が居た。御坂美琴、その人である。結論から言えば、美琴の心は、約一週間の回復期間をもってしても一向に回復しなかった。流石に能力制御が出来るくらいには回復しているのだが、如何せんそれも諸刃の剣。黒子が美琴の望むがままにゲコ太グッズの大人買いをしてみたり(お財布は勿論美琴から)、初春、佐天らが遊びに来たりしたのだが、結果は決して芳しいとは言えなかった。というか、寧ろ悪化の一途を辿っていた。流石にゲコ太グッズではそうではなかったものの、美琴の思考の中心が上条一色になっているがゆえに、結局の所、どんな話をしても「アイツなら…」と美琴が考えてしまい、「あ、そうだった」と思ってドツボに嵌る、悪の無限ループに陥っていたのだ。次第に会話での解決は困難と言うよりも不可能に近い状態にあり、時が経つか上条が意識を戻して元気になるかという、全く先の見えない二択を選ばざるを得ない状況になっていったのだ。そんな精神状態である。夏休み中に、黒子は美琴と自分が本来行く予定だったアメリカ・学芸都市行きのキャンセルを申請したのだが、それは受け付けてもらえなかった。といっても、実際にキャンセルが認められなかったのは黒子だけである。美琴に関しては常盤台外部寮長からも同様の申請があったことがあり認められたのだが、黒子に関してはわざわざその看病の為に残るというのは出来ない、不安であるのならば一時的に精神病院にでも隔離させれば良いだけだとの通知が来た。当然黒子はそれに反発しようとしたのだが、その過程で初春と佐天が一緒に学芸都市に行くということを知り、何やら予感めいた不安を感じたことも手伝って、渋々学芸都市行きを決めている。黒子としては、夏休み明けすぐに学芸都市に行かなければならないということが不安で不安でしょうがなかった。何せよ美琴が精神に変調をきたして以来、自分の知っているお姉さまな美琴を見ていないのである。出来れば出発前の二日間位、外面的にでも良いから元に戻ったお姉さまを見ておきたい。そう思っていた。しかし、神は美琴に残酷であり、非情だった。常盤台の始業式のイベントとして、超能力者によるデモンストレーションが行われることとなったのである。外面は常盤台生の学習・開発意欲向上のためだが、実際には休みボケで気合が入っていなかったり、無駄に浮かれていたりする生徒を引き締める目的がある。常盤台生といえど、所詮は子供。どうしても始業式には浮かれてしまうのだ。だからこそ、教師が怒るよりも強烈な一撃で生徒の目を覚まさせよう…と考えていたわけだ。勿論、その役目を任されたのは心理掌握ではなく、美琴である。目に見えない心理掌握とは違い、超電磁砲は目に見える。単純では有るが、分かりやすい理由である。美琴は体面を繕い、スッと超電磁砲を放つ体勢を取った。後はコインを指で一旦真上に弾き、落ちてきたところで正面に向かって放つだけ。いつもと同じ様に標的に視線を向け、コインを右手の親指と人差し指で挟んだ。その時だった。「…え…う、嘘…」美琴の視界の中の標的が消え、その位置に上条当麻の姿が見えたのは。8月21日の夜、大の字を作り、美琴の電撃を正面から受け止めたあの体勢。その姿のまま、凛とした顔で立つ上条の姿が、はっきりと美琴の目に見えたのだ。「…そ、そんな…そんなこと…」刹那、美琴の動きが止まった。微かに手が震えたかと思うと、コインがその手が滑り落ちていった。そして、コインが地面に落ちたのを一つの合図として、美琴は泣き崩れた。突然美琴を襲った異変に、その場に居た誰もが身動きを取る事もできないまま、ただただ呆然としていた。美琴の現状を知っている、黒子一人を除いて。「まさかの事態、ですの」黒子は即座に美琴を回収すると、保健室へと駆け込み、そのままベッドで横にした。まだショックが有るのか、今は少し気を失っている状態である。「しかし、あんなことになるなんて…」一頻り落ち着いた頃合いを確認して、黒子は思う。多少威力に変化はあるかもしれないが、それでも何とか大役はこなせるだろう、と考えていたのだ。事実、今日ここまでの美琴は見事なまでに今までの御坂美琴を演じきっていたのだ。「ここまで完璧でしたのに…どうされたのでしょうか…?」黒子ですらも美琴を襲った謎の感情の変化に、戸惑いが隠せなかった。しかし、黒子の心を支配したのは、そんな事ではなかった。お姉様が周りから慕われなくなるのでは、とかそんな事でもなかった。美琴の心は、もう元に戻れないのではないか?その疑念だけが、黒子の心を掻き乱していた…。そんな黒子の不安をよそに、時は流れていく。常盤台中で精神に変調をきたした美琴を連れて帰った黒子は、美琴に無期限静養が通達された事を知った。当然ながら、翌日に予定されていたシステムスキャンの無期限延期も、である。黒子は仕方ないと思う反面、僅か10日間ほどの間に現れた美琴の『異変』に、今まで自分の知らなかった美琴を見た気がして、ショックを隠せなかった。同時に、美琴の全てを見た気になっていた自分に対して、恥ずかしさや悔しさ、憤りなどの混ざった複雑な感情をぶつける事しか、出来なかった。舞台は半年間進んで、上条が寝ている病室へと戻る。美琴は、涙でぐしゃぐしゃになった顔をそのままに、半年間の出来事を思い出していた。この半年間、様々なイベントがあった。広域社会見学に始まり、大覇星祭、一端覧祭、クリスマス、正月、そしてバレンタイン…。イベントは多々あれど、その毛色は前三つと後三つで大きく異なる。公私で分けるとすれば、前三つは『公』、後三つは『私』と取る事が出来るからだ。広域社会見学は『学園都市の代表』として派遣されたわけで、大覇星祭や一端覧祭では『常盤台中のエース』、『超能力者の超電磁砲』といった看板を背負っていく必要がある。逆にクリスマスやバレンタインは、『寮監の監視の目を如何にして潜り抜けるか』になる上、正月は届けさえ出せば帰省を含めて一切の自由が利く。勿論、黒子や柵川中組をはじめとする、学園都市に住む大多数の人間は、(ジャッジメントの仕事など、一部を除けば)そういう縛りも皆無であり、充実した半年間を過ごしていた。ただし、こと美琴に関しては話が異なっていた。9月1日、常盤台中学から無期限静養を言い渡されたあの日から、美琴の足は寮の自室と上条の眠る病室を行き来するだけのものと化してしまった。朝、皆が登校準備をしている間に寮を出て、寮に帰ってくるのは寮の門限2,3分前。誰も、何も言わず、ただその美琴の行動を黙ってみている他無かったのだが、思いの外事態は良い方向へと転がった。黒子達が広域社会見学から帰ってきた時には、どことなく影を感じるのは否めなかったが、それでもお盆前位までの時期の、あの美琴が戻ってきていた。本人のやりたいようにやらせること、その重要さが、少しずつ形となって『御坂美琴』を取り戻しつつあった。そんな中で迎えた大覇星祭。初日から美鈴・旅掛と合流した美琴は、ひょんな事から上条刀夜・詩菜夫妻と遭遇する。「おや、御坂さんではないですか」「上条さんですか。こんにちは」「え?ママ、知り合い?」「ええ、そうよ、美琴ちゃん。こちらは、上条詩菜さん。同じフィットネスクラブに通ってて、子供さんを学園都市に預けたってところから意気投合しちゃって」「そうでしたわね。あ、上条詩菜といいます。貴女が噂の美琴さん…」「はい。御坂美琴と言います。よろしくお願いします」「礼儀正しいお嬢さんだな。私は、詩菜の夫の上条刀夜という者です。よろしく」「上条…刀夜…?…!ああ、イギリスの時の!」「ん?そういう貴方は、もしかして…」「ああ、御坂旅掛と言うものだ。あの時は世話になったな」「いえいえ。こちらこそ」「え?…う、嘘、パパも知り合いなの?」「ああ、酒場で色々とあって、な。私とあそこまで意気投合できた漢は刀夜さん以外に知らないな」「そ、そうなんだ…」目の前で色々と起こる事態を飲み込めず、軽く混乱する美琴。しかし、その美琴を現実に引き戻る一言が、刀夜の口から出た。「御坂さんのお宅は早くもお嬢さんと合流できて何よりですね。ウチなんて、当麻の姿を見かけないんですよ。ま、色んなことに首を突っ込みたがる子ですし、中々見つけられないのも納得ですが」その瞬間、美琴の顔色が変わった。上条当麻、その名前には心当たりがある、どころの話では済まされない。同姓同名と言う線も考えられるが、性格まで近いものを持った同姓同名の人間がもう一人居るとは考えられなかった。「美琴ちゃん?どうかしたの?」美鈴がそう尋ねてきて、美琴ははっと我に帰った。しかし、時既に遅し。旅掛の視線は鋭くなり、家族サービスをする父親のそれではなくなっていた。他の三人も、例外なくこちらを心配そうに見ている。美琴の豊な感情表現は、既に上条夫妻にも伝わってしまったようだ。美琴は一瞬誤魔化そうかとも考えたが、旅掛が居るという事情もあり、ありのままを正直に話すことにした。「あのね、私、学園都市に利用されてたの」「私のクローンを作られて、それを実験材料として利用されてた。私一人で止めようとしたけど、出来なかった」「でも今はもう、その実験は行われてない。その実験を中止させる為に、私の代わりに敵と戦ってくれた人が居るの」「私を一人の『中学生の女の子』として見てくれた。そんな人は学園都市では初めてで、凄く嬉しかった」「実験を中止させた時だって、死ぬしかないって思って、絶望してた私の前に現れて、来ないでって、構わないでって、助けようなんて思わないでって叫ぶ私の前に立ちはだかって、私の持てる全力を出した電撃をその身で受け止めて、それでも私を地獄から引っ張り上げてくれた」「それが、私の知ってる上条当麻君」「当麻君は、実験を終わらせる戦いが終わった後からずっと寝たきり。ただ単に意識が戻っていないだけなのだけれど、何時戻るかも分からないって、お医者さんは言ってる」「私ね、その事を知ってから、「自分だけの現実」が確立できないの。心の制御が出来なくなって、友達や後輩に迷惑ばかりかけてて…」そこまで言って、美鈴が美琴の口を塞いだ。ふと周りを見てみると、詩菜は何がなんだかといった表情をしており、旅掛は怒りを身に纏っていた。美鈴や刀夜は、なにやら思案顔だったが、二人の頭の中は似たような物で、美琴が当麻の事を好きなのではないか?と言う事を考えていた。ただ、まだその感情を出来ていないであろう美琴には、それを話すのは拙いというのも察していた。美琴が、幼くして学園都市に預けられ、努力で超能力者にのし上がった学園都市唯一無二の存在だということは有名な話であり、この二人も当然ながら、それを知っている。だからこそ、の思案であった。人間の感情は人によって異なる。100人中99人が同じ考えだったとしても、残りの1人が違うといえば、それは感情としては万人に共通と言い切れる訳ではないということを意味するのだ。だからこそ、美鈴は思う。『当麻君の事で何か思いつめているとしても、「自分だけの現実」の確立が出来なくなるというのは、美琴ちゃん的には考えにくいのよね…。一時的に取り乱すことで、心の制御が難しいというのはあるかもしれないけど、予め確立できてる物を崩されるまではいかないはず。無意識の内に当麻君のことを好きになっているのに、それを認めることが出来ない、と言ったところかな?それなら、美琴ちゃんには『好き』って言う感情を身をもって知ってもらわないとね』『当麻がそこまでやるとは、恋愛感情とかそういうのは一切抜きにしても、美琴さんの事を好意的に見ていたのかもしれないな。ただ、当麻は万人に対して優しい反面、自分に向けられる愛情や好意にはかなり疎い。美琴さんも似てるのかもしれないし、私が口を挟む必要は無いだろう』と、刀夜も漫然と考えていた。そんな感じで、一時的に重苦しい雰囲気になってしまったものの、その後は皆で当麻の病室に見舞いに行き、当麻の分までと言わんばかりに、一週間にも及ぶ祭りを満喫した。後日、学園都市上層部と日本政府の間に緊張が走った事は、公然の秘密である。一端覧祭については特記することがない。単純に御坂・上条両家とも学園都市に来なかったのだ。美琴も、ほぼ上条の傍に付きっ切りの状態であったし、周囲の喧騒を他所に、普段と何も変わらない空間を作り上げていた。年末、クリスマスから正月にかけても同様である。美琴は帰省申請を出さなかったし、美鈴が学園都市に来るということもなかった。美鈴や詩菜は美琴の及び知らぬ所で将来の伴侶を決める大事な話し合いを行ったていたのだ大覇星祭の一週間の間に急激に加速した両家の関係や美琴の感情、学園都市を囲む環境など、色々な事を考えた結果として、先に外堀を埋めるだけ埋めてしまっておいて、後は本人達の自由に任せよう、というスタンスを取ることにしたわけである。勿論、話がトントン拍子に進んだことは言うまでも無い。「…」現実に戻ってきた美琴、しかし、一言も言葉を発しない。そして、自分の右手を見る。超電磁砲、結局今日行われたシステムスキャンでも本気で使用できなかった能力。全力を出したいという葛藤と、全力を出せる相手が居ないという現状が、美琴を苦しめていた。今、目の前で寝ている少年が健在であったなら、そんな事考えなくても良かったのにそう考えて、美琴は顔を顰める。最近、上条の事を思えば思うほど、胸が痛むのだ。真綿で胸を締め付けられているようなその感覚は、8月のあの日、鉄橋の上で感じたあの感覚と一緒だった。息も出来ないような苦しさを感じるのは、あの日上条と一方通行の戦いを見た時と一緒だった。「もしかして、アンタが二度と起きないんじゃないか、なんて考えちゃうからなのかな…」今まで、胸に秘めていた思いが、ポロリと美琴の口から零れる。その言葉が引き金となり、堰を切ったかのように、上条への思いが溢れ出す。「ねぇ、アンタ、早く起きなさいよ…!早く起きて、また私の相手をしてよ!ううん、相手なんてしてもらわなくても構わない。なんでもない他愛の無い話もしたいし、肩を並べて寄り添って歩いてみたいし、膝枕もしてあげたい!」「…」「それに…もっと私の事を見て欲しい!誰よりも素直になって、真っ直ぐに物を言えるような子になって、アンタと一緒にこの街を歩きたい!」「…」「もう…限界だよ…。早く、早く起きてよ…。アンタの居ない生活なんて、もう耐えられないよ…」そこまで言って、美琴ははっとする。今自分が紡いだ言葉は何だったのだろう、と。もしかしたら、今までも同じ事は思っていたのかもしれない。だとすれば、押さえつけられていた思いが出てきたことになる。この感情が何なのか、美琴が考えるまでもなかった。「そっか…私、アン…当麻の事が、好きなんだ…」そう思った瞬間、美琴は大声を上げて泣き出した。上条の事が好きだと自覚した瞬間、胸の中にあった感情が爆発したのだ。堪えきれなくなった感情の奔流が、形となって美琴を濡らす。視界がぼやけていく中、上条の顔が少し苦しげに写ったようにも見えた。美琴はそのまま、疲れ果てて眠ってしまった。美琴が目を覚ました時、時計の針は午後6時を指していた。美琴が一旦病室を出てお手洗いに行き、また戻ってきてみると、そこには二人の見知らぬ男女が居た。「あ、あの…」「あ、10年前の私だわ。やっぱり私は可愛いわね」「ああ、そうだな。10年前の『美琴』は可愛いな」「もう、『討魔』ったら酷い!」「悪かったな。『尊』」「あ、あの!」「あ、ゴメンなさい。10年前の私」「へ…?」「私の名前は神上尊。御坂美琴が上条当麻と結婚して、絶対能力者…所謂レベル6になった姿、と言ったら良いかしら。能力的には電撃使いがベースだけど、そっちはカンストしちゃってるから、黒子の空間移動をサンプルにしてデュアルスキルにした事で上のレベルに上がれたってところね」「え?…レベル…6…?」「枝先さんの件でも、一方通行の件でも構わないけれど、『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』ってのを知ったはずよ」「ま、まさか…」「そう、そのまさか。まあ、私はコイツと色々あって、その結果として付いてきた物だから、アイツらの実験とは全く関係ないけどね」「コ、コイツってなぁ…素直じゃない尊たんもなかなか…」「だからたん言うな」「へいへい。あ、俺は神上討魔。元は上条当麻って名前だったんだ。要はそこで寝てるやつの10年後って訳だ」「…」美琴は何も言えなかった。目の前の超常現象に混乱していたのだ。取り合えず、二人をよく観察してみる。神上討魔と名乗る男性は身長175cm位だろうか。適度に筋肉が付いており、一見するとただのスポーツマンの様に見える。ただ、その顔や首筋にチラホラと見える傷痕が、歴戦の勇者っぽい何かを想像させる。一方、神上尊と名乗った女性。身長は165cm位だろうか。体系的には自分よりも母である美鈴に近い印象を受ける。出ている所の自己主張が激しいが、出て欲しくない所は全く出ていない。理想的な体型と見える。髪を留めているヘアピンのセンスは確かに自分に近い物があるし、口調や性格も似ている気がしないでもない。一応、相手の言うことがあっているという前提の元で、話を進めることにした。「それで、職業は?」「いきなりそれから入るのか…。俺は今は学園都市統括理事長をやってる。巷じゃ『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』って言われてるらしいけど」「所謂SYSTEMってやつね。というかアンタ、ローマ正教やイギリス清教を配下にしておいて、よくそんな能天気で居られるわね…。本来なら暗殺候補筆頭じゃない…。で、私は専業主婦。家事は元々好きだし、『討魔』のお給料って私でも目が飛び出るくらい有るから、やりたい事が何でも出来るのよね。それに、主婦だから自分の時間が結構取れるし。勿論、『討魔』との間に子供を授かってるから、その子のお守りもしてるんだけど」もう何がなにやら、である。美琴は、一つ溜息をつくと、本題へと切り込んだ。「それで、お二人は何故ここへ?」「んーと、当麻を起こす為、かな」「え…?」「結局のところ、俺が昏睡状態だった理由は解明されないんだ。だから、美琴の可能性に賭けるしかない」「私の…可能性…?」「そう。今日は2月21日。時間は午後6時過ぎ。私の記憶が確かなら10年前の私は、この少し前に『当麻が二度と起きないんじゃないか』って言葉に出してしまって、そこから出てくる思いを抑えきれずに『当麻が好き』って事を自覚したはずなの」これは間違いない。何故なら、自分でもそう思ったのだから。「だから、『当麻が二度と起きないんじゃないか』っていう私の幻想をぶち殺してもらうの」「俺も詳細は良く知らないんだが、要は美琴と10年前の俺の頭を撫でてやれば良いんだと」「そういう事。だって、『討魔』は神よりも上の存在。どれだけ神が当麻と10年前の私で弄ぼうとしたって、パワーバランス的にはこちらの方が上になるから、絶対に『幻想』はぶち殺されるの。そして、『感情』だけが残るのよ」「…え?…え?…え?…」「そうよね、やっぱり混乱するわよね。でももう大丈夫。本当に半年もよく頑張ったね。もう安心して良いよ。当麻は必ず意識を取り戻すから」そう言うと、『討魔』と『尊』は視線を交わし、首を縦に振ってから、『討魔』がこちらに近づいてきた。かなり密着に近い状態で、『討魔』は2,3秒美琴の頭を撫でると、そのまま当麻の方向かい、同じ様に2,3秒頭を撫でた。「これで大丈夫。仕事も終わったし、私達はもう帰るわね。もう少ししたら、当麻は目覚めるわ。後は自分に素直になるだけよ。10年前の私」「え、えっと、今更聞くのもどうかなと思うんですけど、どうやって時間移動したんですか?」「『神上』って苗字はね、神の上に立ってるから貰えたの。後は空間移動でも超能力者になれたってところかな」「えっ…」「黒子が空間移動をフル活用すれば100kg位のものを時速300km位で運べるわよね?それの上位互換になるから、光よりも速いスピードで空間を移動することが出来るの。後はそこに超電磁砲を技術を応用する事が出来れば、時間を遡ることが可能って訳」「ま、これにも限界ってのがあって、時間を遡れば遡るほど『尊』への負担は大きくなるし、そんなに長居することも出来なくなる。こういう会話の時間を含めると、この日が時間移動で遡れる限界って所だな」「そういうこと。じゃあ、そんな訳で私達は帰るわね。バイバイ」「あ…」トンでも理論をぶちまけられた挙句、あっさりと未来へ引き返そうとしている二人にあっけに取られていた美琴だったが、それでも何とかお礼だけでもしようと声を掛けようとするのだが、『尊』に「後は、貴女が今出来る精一杯の愛情表現を彼にしてあげること。唇にキスなんかどうかしら?」と耳元で囁かれてしまい、美琴はただただ顔を真っ赤にしたまま立ち尽くすしかできなかった。バタン、という扉の閉まる音で我に返った美琴は、ベッドに寝る上条の方を見やった。確かに、顔色が少し良くなっているような印象を受けるし、これなら『尊』の言うような展開も期待できるかもしれない。そう考えた美琴の動きは早かった。上条の頭の横まで来ると、あの絶望を味わうこととなった夏の暑い日の様に、上条の顔へと自分の顔を近づける。刹那、音も無く、二人の顔が一つに重なった。実際には数秒の事であったが、美琴にとっては一分にも、十分にも感じる時間だった。美琴は上条から顔を離すと、そっと自分の唇を指で撫で、その感触に酔いしれた。と、ここまでは良かったのだが、ここで美琴ははっとした。何故か目覚めていないはずの上条の心拍数が上昇しているし、心なしか顔が赤い様な気がする。「まさか、自分がキスをする前に目覚めていたのでは?」と思い、恥ずかしさや八つ当たりで感情がごっちゃになった美琴は、思いがけず電撃を放つ準備をしていた。その時だった。上条の目が開いたのは。「み、御坂さん…?」「あ、アンタ…何処から起きてた…の…?」「え、えっと、誰かが近づいてきた時には…」「こ、この…」「ちょ、ちょっと、ストップストップ!」そんな、体を動かせないにも拘らず、何とかしようと慌てる上条を見て、美琴も少し冷静さを取り戻す事が出来た。そして、一歩間違えば病院に大損害を与える事になっていた事実を認識し、少し顔を青ざめる。しかし、そんなのもつかの間の事で、結局は上条が目覚めたことが嬉しくてたまらず、上条へと飛びついた。ベッドが軋み、何やら警報音らしき物が鳴った様な気がするが、今の美琴にはそんな事は何も問題ではなかった。「当麻…当麻ぁ…」上条が目覚めた事が嬉しくて嬉しくてたまらなかった。耐えることが出来なくなりつつあった今の生活に別れを告げられる事が、この上なく幸せだった。上条に対して素直に表情を出すことが出来た事が、喜びだった。自分自身の事をどうすることも出来ずに苦しみ、仲間に迷惑をかけ、家族に心配させてしまった。それ以外にも、この半年間で味わった感情の奔流が、美琴を駆け巡る。何時の間にか、美琴の目からは大粒の涙が溢れ出していた。上条は、いきなり抱きついてきて泣き出した美琴を、どうする事も出来なかった。ふと、視線を横にずらすと、デジタル時計の日付は自分が記憶している最後の日から半年流れている。上条はそれを知って、半年間も寝たきりだった、という事実に愕然としながらも、それでも目覚めれたのは自分の身体の上で泣く少女のおかげだろうか、と考えた。多少記憶が曖昧だったとはいえ、唇に暖かい感触が来た事は間違いない。それに、先ほどから自分の目の前で見せる美琴の表情。一瞬、嬉しそうな顔を見せた時はそうでもなかったが、今はチクリと心が痛む。あの日、あの橋の上で、俺は御坂を泣かせないと決めたのではなかったのか?御坂には笑顔が似合うから、御坂がいつも笑っていられるようにしたいと思ったのではなかったか?なら、何故今御坂は泣いている?今まで俺が寝ていたからではないのか?そうだとしたら、俺はどうすれば良い?そこまで考えていると、美琴が口を開いた。「バカ、バカバカ!寂しかった、辛かった、苦しかった!もう限界だったんだから!」「み、美琴さん?」「アンタがどんな気分で寝てたかなんて知らないけどさ、私は、私はもう、アンタの居ない生活に耐えられなかった!アンタの事が好きで、好きで、大好きで、もう周りの事なんてどうでも良いくらいに!」「…え?」「そうよ、私は、アンタに助けられたあの日から、アンタの事が好きで好きでたまらなかったのよ!今までは素直に言えなかったし、アンタが好きだなんて認めたくも無かったけど、もうそんな意地張るようなことしない!アンタにも真っ直ぐに、ど直球で行くって決めたの!」「…」「…大好き、当麻。だから、もう絶対に、どこにも行かないでよ…」上条は愕然とした。目の前の少女が発した言葉の一つ一つが、寝起きの体に強烈なボディーブローを浴びせてきたのだ。おまけに、「好きだから、何処にも行かないでくれ」と言われたのだ。ノックアウト必至の美琴渾身の一撃に、上条も色々と考えを巡らせる。不幸な出来事ばかり、今まで自分の身に起こったせいか、相手が自分の事を好きだと言ってくれるなど露にも思っていなかった。でも、美琴から発せられた言葉を受け止めて、自分の中でもパズルのピースが嵌っていく音が聞こえた。そうだったのか。俺が御坂には泣いていて欲しくない、いつも笑っていて欲しいと願っていたのは、俺が御坂の事を好きだったからなのか。お互いがお互いの事が好きだったなんて、なんて幸運な事だろうか。もしかしたら、今までの不幸の詰め合わせは、全てこの一瞬の幸運の為だけにあったのではないだろうか。だとすれば、今、自分が選ぶ道は一つしかない。御坂美琴というこの華奢な少女と、一緒に道を歩んでいく。彼女は自分にとって高嶺の花なのかもしれない。もしかしたら彼女にも自分の不幸が舞い降りてくるかもしれない。でも、それがどうしたと言うのだ。そんな物、全て、自分の力で切り開いていけば良い。絶対に諦めずに、最後まで全力を出し切れば、必ず願いは叶う。あの日、超能力者に無能力者が勝ったように、この世に不可能なんて言葉は存在しないのだから。静寂立ち込める空間の中で、上条がおもむろに口を開いた。「この半年間、御坂の身に何が起こったかとか、学園都市でどんな事が起きたのかとかは何も分からないから、今から知って行くしかないわけだけどさ…」「うん…うん…」「俺は御坂美琴と共に歩む。そして、御坂美琴とその周りの世界を守る。そんな幻想だけはぶち殺させねえ、必ず現実にしてやるって、今決めた」「うん、大好き、当麻ぁ…」もう一度、二人の顔の距離が近づく。今度は上条の目も開いている。距離が0になる寸前で、美琴が目を閉じた。上条は、少しの笑みを浮かべると、自分も目を閉じ、美琴との距離を一気に縮める。改めての二人のキスは、ちょっとだけしょっぱい感じがした。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3411.html
とある昨日の『あんなこと』 「んっ……んぁ…?」心地良い肌寒さが身を包む中、美琴は目を覚ました。冬の朝という事もあり、まだ眠く、このまま二度寝でもシャレ込もうかと思う美琴である。(うぅ、ん…あと5分だ……け…?)寝返りを打って反対側に体を向け、もう一度夢の世界に行こうとした瞬間、美琴は今現在、異常事態なのだと理解する。…いや、正確には異常事態だと『思い出した』と言うべきだろうか。美琴の目の前、そこには。「っっっ!!!!? なっ、ひゃえ!?」「う~ん…むにゃむにゃ……ミコっちゃ~………くかー…」上条の顔。ちょっと近付けばキス出来てしまう程の距離にいるというのも問題だが、それより何よりこの状況、明らかに一つのベッドで、二人一緒に一夜を明かした事を物語っている。しかも上条は幸せそうな寝顔で美琴の名前を寝言でほざき、その上、「ん、ん~……むぎゅ~~~………むにゃ…」「『むにゃ』じゃないわよっ!!! 何、私を抱き枕代わりにしてくれてんのよアンタはぁあああああああ!!!」思いっきり抱き締めてきやがったのだ。本当に寝ているのかコイツは。だがここで、美琴は奇妙な点に気付く。(もっとも、現時点で奇妙な点など腐る程あったが)上条に抱きつかれた感覚が、何と言うかダイレクトな感じがしたのだ。いや、服は着ている。服は着ているが、いつもより遮蔽物が無いような感覚。「っ!!? ま、まさか!?」美琴はハッと何かに気付き、自分の体をあちこち触ってみる。すると、とんでもない事に気が付いた。サーッと血の気が引いていくのが自分でも分かる。「……私…下着つけてない…?」そう。美琴はいつもの制服を着用しているものの、その下には上下共に下着を着けていなかったのだ。つまりはこのJC、ノーブラにしてノーパンなのである。どうりでスカートの中がスースーする訳だ。何しろ、いつもの短パンも穿いていないのだから。益々混沌極まる異常事態。しかし美琴は、普段ならとっくに「ふにゃー」していてもおかしくないこの状況で、意外な程に冷静だった。彼女は頭を抱えて、一言呟く。「あ~……そう言えば昨日、『あんなこと』があったからなぁ…」どうやら何かあったらしい。この異常事態が平常化するような、更なる異常事態が。しかし昨日の出来事を思い出して、いつまでも後悔しても始まらない。美琴は抱きついている上条の腕を(後ろ髪を引かれる思いで)振り解きながら、毛布を捲り、上条の体を揺さぶって叩き起こそうとする。「ほら! アンタも起きて…って、ええええええぇぇぇ!!!?」だが毛布を捲った瞬間、上条のあられもない姿が飛び込んできた。いや、下着は着けている。下着は着けているが、逆にそれ以外を着ていなかった。つまりはパンツ一丁な状態である。ある意味、今の美琴とは対極的な姿だ。美琴は顔を真っ赤にしながらも、「やっぱり『あんなこと』が…」とブツブツ呟く。その声が脳に届いたのか、上条はうっすらを目を開けた。「んぁ、あ…? ふあっあああぁ…う~、はよー、美琴…」「あっ、お、おはよ……じゃなくて! 服着なさいよ馬鹿っ!」「……ん…? あ~、そういや昨日『あんなこと』があった後そのままだったか…」上条は目をこすりながら、ぼんやりと周りの状況を把握する。大きなあくびをしながら、もそもそとベッドから起き上がった。「えっと、着替え着替え…昨日脱いだ奴でいいか」「っ!!!」まだ半分寝ている頭を必死に働かせ、上条はベッドの周りに無造作に脱ぎ捨ててある自分の服に手を伸ばす。その姿をポヤ~っと見つめていた美琴は、ハッとして目を逸らした。でもすぐチラチラと見てしまう。「くやしい…! でも見ちゃう…!」な状態である。上条からすると自分の下着姿など見られても大して恥ずかしくもないが、美琴は違う。肌色率80%以上の上条の姿に、否が応でもドギマギしてしまうのだ。 「あっ、そうだ! 結局あの後、電池切れの方は大丈夫か?」上条はTシャツを着ながら話しかけてきた。電池切れとは美琴が能力を使い続けた為に、まともに立っている事も出来なくなる状態の事である。美琴は確認するように、小さな火花を「パチッ!」と散らせた。「う~ん…まだ本調子じゃないけど、一応もう使えるみたいね」「あんま無理すんなよ? 『あんなこと』があった後なんだからな」「そ、そう、ね…気をつけるわ……」とは言いつつも、そのおかげで上条と一夜を共にする事が出来たと思うと、あながち電池切れも悪くないかな、なんて思ってしまう美琴。そんな美琴の様子に気付く筈もない着替え途中の上条は、そのままズボンを穿こうとする。しかしズボンを手にかけた瞬間、ポケットに違和感が。(…あれ? 何だこの布…俺ハンカチなんて持ち歩いてないし…)妙に膨らみのあるズボンのポケットに手を突っ込むと、布製の何かがある。不思議に思った上条はそれを出し、広げてみると。「………………へ?」そこには、お馴染みのカエル(美琴曰く「ゲコ太」とかいうキャラクター)の顔があった。そしてその布は、綺麗な逆三角形で大きな穴が三つ開いているという特徴的な形をしていた。何となく見覚えのある形である。上条はその布を広げたまま、美琴に聞こえないように心の中で絶叫した。(これミコっちゃんのおパンツではありませんかああああああ!!!?)大正解。上条は美琴に見えないように布改めミコパン(ミコっちゃんのおパンツの略)を広げたが、背後から「何してんの?」という声に反応し、背筋をビクリと伸ばしてしまう。ちなみに美琴がノーパンでこんなにも落ち着いていられるのは、上条に隠れてこっそりと短パンを装着したからだ。美琴のブラジャーと短パンも上条の衣服と同様、ベッドの周りに脱ぎ散らかっていたのである。ただし『何故か』ショーツだけが見当たらなかったようだが。ゲコ太の顔がプリントされた、お気に入りのショーツだけが『何故か』。「何してんの?」「っ!!! ななな、何でもありませんですことよっ!!?」上条はとっさに元あった場所にしまい込む。ズボンのポケットに、違和感が戻ってきた。だが瞬間、本能的に隠してしまった事を後悔した。(あっ! 隠さないで、美琴に事情を話して返せば良かった… 『あんなこと』があったのは、美琴だって分かってるだろうし…)だが後悔は先に立ってはくれない。「何でもない」と言ってしまった手前、今更ポケットの中身を出すと逆に変に思われる。タイミングを計って、もう一度取り出すとしよう。このカエルの顔がついたミコパンを。「そ、そう言えばアレだな! 昨日の夜に美琴がカレー作ってくれたから、朝飯はそれの残りでいいよな!?」上条は話を逸らす為に、無理矢理話題を変えた。コンロの上には鍋が置きっぱなしになっており、食欲をそそるスパイスの香りが漂ってくる。「えっ!? あ、うん…そ、そうね。昨日…カレー食べたもん、ね…」すると美琴はたちまち「カアァ…」と赤面してしまった。その理由とは。「ね、ねぇ…アンタ、カレー食べた後に何て言ったか覚えてる…?」「うっ、え、あ…ま、まぁ…覚えてるけど……」そして上条も、美琴に釣られて「カアァ…」と赤面する。「ア、アンタ…あの時『あんなこと』言っちゃったけど、アレ本気…だったの…?」「い、いい、いやあのその…た、確かに『あんなこと』言ったけど、 でもアレは、その場の勢いって言うか、 テンション高くなって思わず言っちまったって言うか… でも…わ、割と本気だったような気がしないでもないかと思われますです…はい…」「そ、そそそ、そうなんだぁ……へ、へぇ~、ふぅ~ん…」お互い甘酸っぱ気まずそうに目を逸らし、ポリポリと頬をかく。何だかラブコメの波動を感じるが、やられっ放しというのも腑に落ちないので、ここで上条は反撃に出る。「で、でもだぞ! それは美琴が先に、カレーで『あんなこと』をするから悪いと思うのですよ! 上条さんだって男なんだから、女の子から『あんなこと』されたら思わず……」 言いかけて、美琴の様子がおかしい事に気付く上条。美琴は赤面したままの顔を俯かせて、「だって…だって…」と呟いている。「だ、だって…アレは、その……アンタがあんなに美味しそうに食べてくれたから、つい… そ、そりゃ確かに、私も『あんなこと』したのは…今考えると、は、恥ずかしいけど…」「ううぅっ…!?」俯いてモジモジするその姿に、鈍感王たる上条さんも思わずキュンとしてしまう。何だかじっとりと変な汗が額から滲んできた上条は、ポケットの中の『ハンカチのような物』を取り出し、汗を拭う。普段はそんな事しないだろうに、テンパっているせいで、いつもと違う行動を起こしてしまったようだ。それが不幸の元なのだと、気付きもしないで。「い、いや~…ま、まぁ実際に美味かったしなぁ……」「……あれ? アンタ、そのハンカチって…?」「えっ? ……………ああぁっ!!?」しかしその『ハンカチのような物』は当然ながらハンカチではない。見覚えのあるゲコ太の顔に疑問を持った美琴が詰め寄ると、上条も『それ』が何なのかを思い出し、ハッとする。だが勿論、そんなのは後の祭りだ。「ちょちょちょっ!!! アアア、アンタ!!! そのハンカチ広げてみなさいよ!!!」「あっ!!! いや、ダメ!!! 激しくしないでえええええ!!!」上条が額を拭った『ハンカチのような物』を巡り、ドスンバタンと取っ組み合いが始まった。二人は小競り合いをしているつもりのようだが、端から見ればイチャついているようにしか見えない。その証拠に、「「っっっ!!!!!?」」最終的に上条が美琴を押し倒す形で床ドンしてしまったから。通常運転である。「あ、その、わ、悪い…」「あ、や、べ、別にいいけど…」顔が間近にある状態で、見詰め合う男女。このままキスしちゃいそうな雰囲気だが、そこは上条の不幸体質。上空からヒラヒラと舞い落ちた『布状の何か』により、その幻想はぶち殺される事となる。お忘れではないだろう。そもそも二人が、何故取っ組み合いを始めたのか、その原因を。押し倒し倒されな二人の横に、ファサッと落ちてきた『布状の何か』は、先程まで上条のポケットに入っていた物だ。そして、ゲコ太の顔がプリントされている。瞬間、美琴の頭からバチバチと電撃は放たれる。まだ本調子ではないものの、それでも相手を気絶させられるだけの威力はある。もっとも上条には電撃の威力など関係なく、とっさに右手をかざして打ち消す。だが上条にとって脅威なのは電撃そのものではなく、その後の美琴の剣幕である。「アアアアンタやっぱり私のパ、パパ、パ、パン、パン~~~!!!」「おおおおお落ち着け美琴~~~!!! 上条さんだって隠してた訳じゃなくて、その、ほら、アレだ…… そ、そう! 昨日は『あんなこと』があったから仕方なく!!!」それを聞いた瞬間、美琴の怒りは嘘の様に消火した。「…ま、まぁ確かに『あんなこと』があったんだから、 アンタが全部悪いって事はないんだろうけど…」「だ、だろ!? 『あんなこと』があったんだから………あっ」すると上条は昨日の事を思い出して、ふと、こんな事を言ってきた。「なぁ、美琴。『あんなこと』しちゃったんだから、その… た、試しにキスとかしてはみませんでせうか?」すると美琴は。「ふぇあっ!!? だだだ、ダメよっ!!! それとこれとは話が別じゃないのよっ!!! そ、そりゃ私だって……『あんなこと』の後なんだし、 キキキ、キスくらいなら…しちゃってもいいかな…なんて思うけどゴニョゴニョ…」さて、ここまで読んで頂いた方には先程から気になっているワードがあると思う。 『 あ ん な こ と 』どうやら昨日は二人の間で相当な事件があったらしいのだが、では具体的に何をしたのかと聞かれたら、実はまだ語られていない。オチ無し!!!
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1052.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox 彼女が水着に着替えたら 一杯で二人分のドリンクも何とか消化した。 サンドイッチもソーセージの盛り合わせも最後は上条が一人で全部食べて、 「そんなにサンドイッチのマスタードって辛かったか? 俺とお前でそこまで味覚が違うとも思えねーんだけど」 「お願いだから今は何も言わないで……」 カフェテリアから出てパーカーをクロークに預けても、上条の左腕にしがみついたまま美琴は茹で上がったほうれん草のようにぐったりとしていた。茹で上がったと言えば美琴の顔は茹でだこか何かのように真っ赤になったままだ。赤くなってげんなりという美琴もなかなか珍しい。 「体調悪いんだったら帰るか?」 これ以上視覚と触覚による衝撃を被りたくない上条がそう尋ねると、上条の腕にしがみついたまま美琴はふるふると首を横に振った。 互いに理解不能の精神的ダメージを負ったまま、上条と美琴は腕を組んで滑り止めでコーティングされた通路をペタペタと歩く。 俺この施設ほとんど分かんねえんだけど次はどこ行きゃ良いんだろうなと周りをキョロキョロ見回して、上条はとあるプールのそばで奇妙な立て看板を見つけた。 「何だこりゃ?」 立て看板にはこの辺にATMでもあったっけ? と思いたくなるような一言が施設利用案内として書かれている。そして、立て看板はとあるプールのあちこちに立てられている。 立て看板にはこう書かれていた。 『ご利用は計画的に』 「……、はぁ?」 上条は目の前に広がるとあるプールを見つめ、その周囲で遊ぶ若者達の行動を目で追い掛ける。 プールには飛び込み台が設置されていた。水泳の高飛び込み競技でも使えそうな本格的な飛び込み台だ。 飛び込み台の高さはそれぞれ五メートルと一〇メートル。腕に自信のある水泳部出身らしい女の子が一〇メートルの高さから飛び込んでノースプラッシュを決めている。 プールの端っこでは水面に浮き輪を浮かべ、通路から助走をつけた少年が浮き輪の中心めがけて大ジャンプを繰り出したり、何事かを叫んでプールサイドを蹴って水中に突っ込むお客もいる。 ここは飛び込み専用プール。 文字通り『飛び込む事』だけを考えられて作られたプールだ。 他のプールは全面的に飛び込み禁止だが、このプールだけは飛び込む事を前提として作られた、ようはストレスを発散したり解消したりするためのプールだ。 プールを挟んで上条達の反対側では、手をつないで助走をつけて仲良く飛び込むカップルや、飛び込む直前で華麗なバク転を決めて入水する若者もいる。そして、誰一人泳いでいない。 ここは飛び込むためだけに作られたプールで水深は一五メートル。 飛び込んだまま潜水を楽しむのも良いが、潜るための用具や重りもつけない生身の体では、慣れた者でないとプールの底に手をつけるのは難しい。 つまり、『他の人間が飛び込んできて接触しても大事故になってもましてや溺れても当局は一切関知しませんので自己責任でお楽しみ下さい』というのが立て看板の趣旨なのだ。 ストレス発散用のプールで水の代わりにストレスを溜めてどうする。小さい事は気にするな。 たったの一行しかない利用案内からそんな意志が読み取れそうな、かなり投げやりなプールだった。いや、飛び込むのだから投げやりではない。むしろ投げっぱなし。 「御坂、気分転換にこれなんかどうだ? 心の中の鬱憤を大声で叫びながら飛び込めば、お前もちったあ元気出んじゃねーの?」 ほれあんな風に、と肘に当たる美琴の何とも言えない感触を意識の外に追いやって、上条はプールを指差す。 美琴がちらりと上条を見上げて、上条の顔の一点を見つめて視線がピタリと止まる。 「ん? 顔にパンくずでも付いてっか?」 上条は右手で口の辺りを払ってみるが、特にパンくず独特のぶつぶつした感触はない。 美琴はそれを見てグリン!! と視線をプールの方へ逸らし、上条と組んでいた腕を放した。 「やる気になったか? さあ思い切って飛び込んでこい!!」 上条が脳天気に応援すると、美琴はいっちにーさんしーとストレッチを始める。気合いが入っているあたり、よっぽど日常生活でストレス溜まってたんだなーと上条は思いつつ、美琴がストレッチを終えるまでは後ろを向いている事にした。 「……行くわよ」 後ろを向いたままの上条が振り向かなくても分かるほど大きく息を吸って、次の瞬間美琴が滑り止め加工された通路をどだだだだーっ!! というものすごい足音を立てて走り出した。 とてもではないが、かわいい水着を着たかわいい女の子の足音とは思えない。 彼女はよっぽど胸の内に何かを溜め込んでいたのだろう。 上条は背中越しに頑張れよーと声をかける。 上条の背後で徐々に小さくなっていく足音が消えて、美琴が飛び込んだ水音はいつまでも聞こえない。 「……? どうしたー?」 何も音が聞こえないので上条が不審に思って振り向くと、プールの縁ぎりぎりのところで美琴が動きを止めていた。 「何だ? 飛び込むのが怖くなったのか? 後ろから押してやろうか? いっそ蹴飛ばして」 「……アンタも一緒にやるの」 美琴はプールサイドから小走りに上条の元へ戻ってきた。胸元のリボンの辺りがちょっと揺れてたような気もするがたぶん気のせいだろうと上条はギュバ!! とあらぬ方向へ視線を逸らす。 「? 一緒にって? ……ああ、なるほど」 向こう岸では相も変わらず先ほどのカップルが手をつないでプールに飛び込んでいる。 つか、アイツらこれで何回目だ。それは何かの宗教か? まあ手をつないでやるくらいなら良いかと思って上条が美琴に手を差し出すと、 「ううん、アンタが私をおんぶして」 「何でだよ! それは本当にストレス発散に必要なのか? 俺にいらねえストレス溜めてどうすんだよ!?」 上条は理不尽さのあまり絶叫する。 美琴は何一つ悪びれることなくしれっとした顔で、 「いいじゃない、私達恋人同士なんだからそれくらいしたって。いっそお姫様抱っこで飛び込んでみる?」 「それくらいもこれくらいもあるか! お前自分が今どんなカッコしてっか分かって言ってんだろうな?」 「ここはプールで、私もアンタも水着よね? 何かおかしいところでもあるのかしらー?」 上条を見て意地悪く笑う。 上条は元気になったらなったで性質悪いよなコイツと思いながら、 「……まあ、たまにはいいか……」 あくまでもこれは美琴が言い出したことであって俺の願望じゃありませんよとポーズをつけて、 上条は美琴の目の前で背中を向けて両手を後ろに差し出しその場にしゃがみ込む。 美琴は上条の背中に乗ると上条の肩越しに手を伸ばしプールを指差して、 「行けっ! 走れっ! 上条当麻号!!」 「だあーっ! 俺は彼氏でも下僕でもなく馬にランクダウンかよ!?」 飛び込み専用プールはストレス発散のためのプールだ。ストレスを溜めてどうする。 上条は美琴を背負いその場でぐっと立ち上がる。背中に何か当たってるけどこの際無視だ無視と歯を食いしばって、上条はプールめがけて走り出した。 走って、加速をつけて走って、上条は通路を蹴り飛ばし、高く跳躍して叫ぶ。 飛び込み専用プールはストレス発散のためのプールだ。 美琴から受ける逆セクハラっぽいストレスを吹き飛ばすべく、腹の底に思い切り力を込めて 「ふこ――――――――――――――――――――――――……?」 上条が最後まで叫びきる前に、耳元で美琴が何かをささやいた。 何をささやいたのかは、二人が着水する衝撃とザッブーン!! という水音で完全に聞き取れなかった。 上条と美琴は造波プールで脚を投げ出して座っていた。 造波プールとは実際の海岸をイメージして作られた、手前は浅く、奥に向かって行くほど深くなるプールと言えば分かりやすいだろうか。 五〇メートル先に設置された大画面(エキシビジョン)では、どこか遠い南の島の海岸が映し出されていた。大画面の根元からは映像に合わせて最大一・二メートルに達する人工の大波がきゃあきゃあ騒ぐお客をさらうのだ。 上条や美琴のように遊び疲れた者達は浜辺にあたるプールの『裾』で寝っ転がったり体育座りしたりしながら寄せては返すさざ波に体を浸していた。 遠くの方では女の子二人組が柔軟体操に挑戦しているらしく『ほら見て見て初春、柔らかいでしょー? ここって傾斜がついてるから左右開脚とか前屈もしやすいんだよ』『ぶふへっ!? 佐天さんこんなところでそんな事しちゃダメです!!』と言ったかしましい声も風に乗って聞こえてくる。 上条と美琴は美琴が前、上条が後ろと縦に並んで、いわゆる恋人座りで大画面をぼんやりと眺めていた。美琴は上条の胸元に背中を預けて寄りかかり、上条は若干後ろへ体を引き気味に腰を下ろす。 飛び込み専用プールで何かを吹っ切ったらしい美琴に引きずり回されて、ジャグジープールでは泡にまみれてぶくぶく沈み、渓流プールでは足首までを水に浸して水の掛け合いで遊び、競泳プールでは一〇〇メートル三本勝負で上条の一勝二敗だった。 けだるい疲労感を肩に乗せ、二人はくつろぐ。 美琴は五〇メートル先に見える常夏の海に目を細めながら、 「海、行きたかったな……」 「海ねえ……お前が海に入ると片っ端から海水を電気分解とかしないの?」 「するかっ! ……いつかは一緒に行けると良いなぁ」 「潮水はべたべたするし、人は多いし、砂浜は貝殻だらけだし、飯はまずいし、行ってもいいとこなんかないと思うんだが」 美琴は上条の頭をぺしっとはたいて、 「雰囲気の欠片もない事を言うんじゃないわよ。……学園都市は便利だけどどこまで行っても人工物ばかりだし、どこかで知り合いに会うかも知れないから気が気じゃないのよね。『外』だったら、周りは知らない人ばかりでしょ? 二人っきりみたいなもんじゃない」 そしたら、と美琴は一拍置いて、 「海で泳いでさ、夜になったらこうして二人で砂浜に座って星空を眺めて、流れ星を探すの。学園都市じゃたくさんの星は見えないから」 「流れ星、か……」 それは実に少女趣味(ロマンチック)だと上条は心の中でぼやく。 「アンタも一緒に探すのよ? 二人で行くんだからね」 美琴は上条にぐっと寄りかかり体重を預けて、上条の両腕を引っ張ると自分の体の前に回させる。上条は咄嗟に腕をほどこうとするが、美琴が上条の両手首を握って離さない。 「こら、逃げるんじゃないの」 「逃げるなったって……」 上条は力ずくで美琴を振り払おうとしたが、そんなところでムキになるのは大人げなく思えてきたので、そっちはもう放っておく事にした。 「なあ御坂。お前、本当にこれで良いのかよ。俺はお前の彼氏だけど男で、こんなにベタベタくっついてて、その……ちっとは身の危険とか感じたりしないのか?」 美琴は一瞬動きを止め、握っていた上条の手首から自分の手を離すと 「きゃー、私こわーい。………………とでも言えば喜ぶのかアンタは」 視線を大画面に向けたまま告げる。 「……私はさ、アンタの事好きだからそばにいたいし、いつだって抱きしめていて欲しい。アンタは私の恋人。そうでしょ? だったらそれくらい考えたって当たり前じゃない」 女はそれで良いかもしれないが、そうはいかないのが男というものだ。 このお嬢様はそこら辺分かってんのかよと上条が心の中でぶつぶつ文句を唱えていると、 「……あのさ」 打って変わって言いにくそうに、美琴が切り出す。 「……何だ?」 「だから最後に、…………き、き……キスして」 「……、」 「……ここを出たら、夏の魔法が解けちゃうもん。ここを出たら私は夏服を着て、常盤台中学の生徒に逆戻り。アンタがずっと気にしている義務教育中の中学生に戻っちゃうから……だから最後に」 「……、最後って何だよ? 別に俺達がこれで終わりって訳じゃねえだろが」 え、と美琴が小さく漏らす声を打ち消すように、 「そんなに焦んなよ」 上条は美琴の肩越しに前を見て告げる。 「お前はさ、何か俺のことで勝手に一人で悩んで、俺の手を引っ張ってどんどん先に進もうとするけれど……何をそんなに急いで、何をそんなに焦って、何を悲劇のヒロインぶってんだよ? そんなに先を急いだら、俺もお前も二人でいることにいつか疲れちまうんじゃねえのか? とてもじゃないけどお前が言うような一生の片思いは続けられねえぞ? お前は俺を一生かかって振り向かせるんだろ? 俺達はいつかあの画面に映ってるみたいな海に行って、お前は俺と一緒に『外』に行くんだろ? だったらもっとのんびり行こうぜ。……つか、何で泣いてんだよ?」 美琴は何でもないわよと少しだけ鼻を啜って、 「……私は、アンタの言う通りガキで、わがままで、やきもち焼きで、ガサツだけど……アンタのこと、誰よりも好き。ううん、愛してる。これからもアンタのそばにいて良い?」 「それは俺に聞くことじゃねえよ。お前が自分で決めろ。俺はやりたい事をやっている時のお前が好きなんだから、お前のやりたいように選べよ」 美琴は黙ったまま上条の腕の中で一八〇度向きを変えた。 それが美琴の選択だった。 美琴はそのまま目を閉じて、少し血の気のない唇を差し出すように鼻の頭を斜め上に向ける。 上条は両手を美琴の頬に添えた。 掌から美琴の震えが伝わる。 上条は軽く息を吐いて呼吸を整えると、 美琴のおでこに自分の唇を軽く押し当てた。 上条は唇を離し余裕綽々の顔をビキビキ引きつらせながら、 「………………………………これだってキスだよな?」 「…………………………」 美琴からの言葉はない。 上条が美琴から手を離しても、美琴は視線を固定したままぴくりとも動かない。 「……………………………………清いお付き合いとしてこれはセーフだよな?」 繰り返し問いかけても言葉はない。 言葉の代わりに、青色リトマス試験紙を酸性溶液に漬けた時みたいに向かい合って正座した美琴の首から上が赤く染まる。 美琴の視線が落ちて、美琴の両手が上条の両肩に置かれる。赤くなった顔を世界の全てから隠すように、美琴の額が上条の右肩に押し当てられる。 ずるい、と熱を帯びた吐息混じりの呟きが聞こえた。 「ずるくねーよ。……ずるく、ねーよ」 本当は美琴の気持ちに応えたかった。 けれど、できなかった。 説明できないしこりのようなものが心に引っかかって最後の最後でどうしても踏み出せない。 上条は心の中で渦を巻き始めた戸惑いと共に、 気づいた。 「……、なあ御坂。向こうで長い黒髪の女の子と頭に花をいっぱい乗っけた女の子がこっちを見てっけど、あの子達ってお前の知り合いか?」 美琴は女の子二人の手を引っ張っていずこかへと立ち去った。 その場に取り残された上条はプールで遊ぶのもこれにてお開きと判断し、一人で滑り止めでコーティングされた通路をペタペタと歩き更衣室へ向かった。 美琴の友達ならちゃんと紹介してくれればいいのにと思ったが、二人を見た美琴は血相を変えていた。実は彼女達はここで出会うはずのない常盤台中学の後輩で、美琴は口止めしに言ったのかも知れないと上条は推測する。 そう言えば彼女たちの会話の中に『生でこちゅー』なる生ビールとデコレーションケーキの中間みたいな単語が混じってたが、あれはいったい何だったのだろう。 更衣室のロッカーから着替えを取り出しながら上条はそんな事をむにゃむにゃと考えつつ、持ってきたタオルでツンツン頭をゴシゴシと拭いて、髪を適当に乾かした。それから脱いだ水着を畳んでビニール袋に入れると持ってきたスポーツバッグに放り込み、Tシャツを頭からかぶる。 皮膚をこする合成繊維の感触と温度で、ようやく水から切り離されて人心地ついたような気がする。ウォーター・パークは水辺だから水着を着るのは当然だが、やはり服があるというのは安心感につながる。 そこで上条は唐突に美琴の水着姿を思い出し、ぶわっと顔が赤くなった。 あの水着は美琴によく似合っていた。見た瞬間彼女が中学生である事を忘れてしまった。 上条の頭の中からはあの姿が離れない。しばらくはいろいろな妄想や夜の蒸し暑さと合わせて眠れぬ夜を過ごす事になりそうだ。 上条は身支度を調えロッカーの扉を閉めてスポーツバッグを手に提げると、更衣室の外へ出た。受付カウンターでICバンドを返却し、チップに残った電子マネーを精算してもらうと、ロビーのそこかしこに置かれているいかにも高級品ですと書いてありそうな一人がけ用ソファに腰掛けて、体重を預ける。 御坂美琴は読心能力者(サイコメトラー)ではない。 だから、美琴の買い物が終わった後佐天が『へっへっへ、こりゃ面白い事になってきましたよー』とデート当日の尾行を決意したり、あまつさえ佐天が友人の初春に話を持ちかけて『じゃあ、私は白井さんにデートを邪魔されないよう偽情報を流しておきますから!』とタッグを組んだことなど読み取れる訳もなかった。 「……はぁ……まさか佐天さんと初春さんが来てるなんて」 思いもよらなかった。 あの二人の行動力を甘く見ていたかも知れない。 しかも彼女達は割と長い時間、美琴達を尾行していたらしい。 美琴は口外して欲しくないあれやこれやを言い含めた後、二人をスイーツエリアまで送り届けた。あまりの迂闊さに脱力して上条と別れた地点に戻ってきたら、上条はいなくなっていた。 仕方がないので近くのクロークに頼んで上条のICバンドを追跡探信(サーチ)してもらったところ『どうやらお連れの方は更衣室に引っ込んだみたいですね』と濃い髭を蓄えたむさ苦しい係員から返事が戻ってきた。 このウォーター・パークに設置されているスピーカーは、音楽と一緒に『人の耳には入らない』特殊な音波を流している。それをお客が身に着けているICバンド内のチップにぶつけることで探索する、一種のソナーの役目も果たしているのだ。 ここはホテルの一室だった。 美琴は佐天と初春をスイーツエリアまで送り届けた後、部屋に備え付けられたユニットバスを利用してシャワーを浴びていた。 シャワーの蛇口をひねって頭上からざぶざぶ降り続けていたお湯を止めると、両手を使って頭の後ろで髪をまとめてぎゅっと絞り、水分を落とした。あらかじめ濡れない場所に避難させておいた大きめのバスタオルを取って体に巻き付け、ユニットバスを出る。 スイーツエリアに足を踏み入れる直前、佐天は振り返って美琴に告げた。 『いやー、彼氏さんは御坂さんに冷たいって聞いてましたけど、そんなことないじゃないですか』 初春は告げた。 『ちょっとぶっきらぼうみたいですけど、ちゃんと御坂さんのことあれこれ気にかけててうらやましいです』 二人は声を揃えて、 『御坂さんって彼氏さんにメチャクチャ愛されてますよ。彼氏さん、御坂さんにメロメロじゃないですかー』 『そのメロメロってどう考えても死語じゃない? 現代でも通用すんの??』 あの二人はどこを見てるんだと美琴は思う。 上条は女性客とすれ違う度に、美琴の隣からその女性客のいる方へすいと体を入れ替えてしまうのだ。美琴はそんな上条の頭を今日一日で何度はたいたか数え切れない。 そう説明したところ佐天は美琴に『わかってないなぁ』と言いたげな顔をして、 『……御坂さんってホント女の子ですねー。そのすれ違った女性のお客さんだって、反対側に男の人を連れてませんでしたか?』 あたし、御坂さんの彼氏さんに同情しちゃいますと佐天が告げて、そうですよと初春が相槌を打つ。 これ以上はヒントあげませんから頑張ってくださいねー、と笑う二人と別れて、美琴はこの部屋に戻ってきた。 ヒント、と言われても美琴には納得できない。 (あの馬鹿、私よりちょっと……いやちょっとじゃないけどさ。スタイルのいい女の人が通りかかるとすぐそっちに行こうとすんだから。彼女の前で他の女に色目使ってんじゃないっつーの。他の人に私の水着姿を見せたくないとか、そう言う気の利いた台詞の一つもない訳?) そこで何かが心に引っかかった。 引っかかったが、何が引っかかったのか良く分からない。 佐天達の言葉と何か関連するようだったが、恋愛経験の少ない美琴の中でうまく形を結ばない。 そんなことより少し急いだ方が良い。 美琴がこの部屋へ戻ってきてすでに三〇分近くが経過している。今頃上条は一階のロビーでイライラしながら美琴を待っているだろう。 心の中の引っかかりは首を横に振って追い払い、着替えを終えて備え付けのドライヤーで手早く髪を乾かし、常盤台中学指定ドラムバッグに手荷物を詰め込んで美琴は部屋を出た。 美琴としてはちょっと背伸びした水着で、少しだけ勇気を出して色仕掛け(らしきもの)に挑戦してみた。上条は喜んでくれたらしいのだが、美琴の予想と言うか希望とはおよそかけ離れた反応だった。 泣き落としも今ひとつで、隠し持っていた切り札の投入がことごとく外れた徒労感に美琴は肩を落とす。 おでこにキスは上条が自分からしてきたことなのでそれはそれで良いとしても、 (……何が足りないんだろうなぁ。母さんの言う通りもっと大胆に……いや、それは無理! さすがに無理!! ポーカーフェイスに口から出任せのハッタリだって結構精一杯なのに!!) 念のため確認するが、御坂美琴は読心能力者ではない。 当然、上条が何を思っていたかわかるはずもない。 上条が美琴を遠ざけようとする理由に心当たりはあるのだが、 上条の気持ちが掴めなくて何となくやりきれない。 美琴は小さくため息をついて、下りのエレベーターに乗り込んだ。 軽く頬を親指と人差し指でつまんで引っ張ると表情を強気な笑顔に戻す。 弱気になるのはまだ早い。 今日はまだ終わっていないのだから。 「しっかし、それにしても……」 上条は、恋愛とはもっと気楽なものだと思っていた。 クラスの仲間に聞いても『昨日デートしたんだぜー』とか『彼女の部屋に行ってさー』などと言ったゆるい会話ばかりで、上条のように彼女からさんざんお説教や講釈を喰らい、あげくの果てに挑発されるという話は聞いた事がない。一体何が間違っているのだろうとひとしきり悩んで、上条は考えるのを止めた。 考えるのはあまり好きではない。それに、考えるなら美琴と一緒に考えるべきだ。 だんだん面倒になってきたので上条は心の中で適当に話をまとめる。 おーやっぱこういうところのソファって豪勢だなぁなどと背中を押し付けたり座ったままポンポン飛び跳ねながらふかふか加減を楽しんでいると、 「お待たせー」 上条が今腰を下ろしているソファの後方、受付カウンターからではなく上条の前方から美琴が現れた。 美琴は常盤台中学の夏服に着替えて、手には今朝と同じく常盤台中学指定のドラムバッグを提げている。濡れていた髪はサラサラに乾かされ、艶のある輝きを取り戻していた。 上条は美琴の不審な出現に首を傾げて、 「……あれ? お前とっくに着替え終わってたのか? だったら声かけてくれれば……」 「ううん、今終わったところだけ―――ど?」 美琴は上条の膝の上に勢いよく横向きに座って、自分の左手首に巻いたICバンドを上条に見せた。これがまだ美琴の手首に付いていると言う事は、美琴は受付カウンターを通っていないと言う事になる。 上条は美琴を膝の上に乗せたままジタバタ暴れて、 「ぶっ!? バカ、俺の膝の上に座るな!! 他にも空いてるソファはあるだろが!! とっとと降りろ!!」 よく見ると美琴のICバンドにはもう一つ見慣れないチップのようなものが取り付けられている。ICバンドにも男性用女性用って分かれているのかなと不思議に思って、 「あれ? お前のICバンドについてるそのもう一つのチップって、女性専用のステキ機能とかラッキーなおまけがついてくるとか、何か特別なものなのか?」 「ああ、これはね」 美琴はちらりとICバンドを見やると、 「ホテルのカードキーの代わりなのよ。カードキーと紐付けられていて、代わりにこっちでもドアが開けられるの。便利でしょ?」 バンドの付いた手首を指差す。 「そりゃ便利そうだけど、それで何のドアを開けるんだ?」 「ホテルのカードキーなんだから、開けるのはホテルの部屋のドアに決まってんじゃない」 「……へ?」 美琴は何を言ってるんだこの馬鹿はと言いたげな表情で、 「だから、着替えんのにこのホテルの部屋を借りたのよ。日焼け止め塗ったり色々下準備するのに、更衣室じゃ全部はできないもん。上に部屋借りたから着替えに行こうってアンタに声かけようとしたら、アンタさっさと更衣室に行っちゃうんだもの。仕方ないから私一人で上で着替えてたのよ」 「……どうりで、お前がここの使い道に詳しいはずだ」 上条はソファの背もたれに両手を広げ、ロビーの高い天井に顔を向けて嘆息する。 ホテルに泊まってそのまま各種リゾート施設に繰り出す事は誰でも予想できるが、借りた部屋で『カップルが支度する』などと言う、やけに思わせぶりな台詞は実際に利用してみなければ思いつかない。 「……話が逸れたけど、俺の膝から降りろよ。そろそろ帰るんだからとっとと精算して来いって」 「んー、泳いで疲れちゃったからちょっと休憩?」 「だったら他のところに座れ。席ならいくらでも空いてんじゃねえか」 美琴は上条の言葉を聞き流しツンツン頭を一房つまむと、 「髪の毛ちゃんと乾いてないじゃない。拭いてあげるからじっとしてて」 上条の膝の上に乗ったまま、美琴は足下のドラムバッグに手を伸ばすと器用にファスナーを開けて中からタオルを一枚取りだし、上条の湿ってややつぶれ気味なツンツン頭をゴシゴシと拭き始める。 「うわっ、俺の膝の上でジタバタしたらお前の体がグラグラ揺れて俺も一緒にグラグラすんだろが! 拭いてくれるのはありがたいけど、だったら降りてからやってくれよ!!」 「あーはいはい、ちゃんと髪の毛拭けないから私の体に手を回して固定しててくれる?」 美琴は上条の膝の上から降りるつもりはないらしい。これって結局美琴がやりたがってた『彼氏の膝の上に横座り』じゃねーかと気がついて、 それだけじゃない。 上条の目の高さと同じ位置に、美琴のサマーセーターに刺繍された常盤台中学の校章がある。 それって、 それってつまり。 女の子を膝の上に侍らせてその胸元に顔を埋めて喜んでるどっかのエロ親父と同じ姿に見えないか? とたんに上条の背中から嫌な汗が噴き出し、だらだらと背筋を流れ落ちていく。 「み、御坂さん。可及的速やかにわたくしめの膝の上から降りていただけないでしょうか?」 「何で? 髪の毛乾ききってないからもうちょっとそのままね」 「決してあなた様が重いなどとは一言も申し上げませんが、できれば降りていただけないでしょうか?」 「いや」 「何でだよ! 人前でこんなこっ恥ずかしい真似させんの止めてくれよ!! 周りの人が見てるだろ!?」 「……それだったら気にしなくて良いわよ」 「……、何で」 美琴はそこまで言い切れるのか。 「だってここ、そう言うとこだもん。誰も他人の事なんか気にしないわよ。むしろ変に恥ずかしがったり照れてたりするとかえって浮くわよ?」 「え? ……ちょ……げ…………」 上条が辺りを見回すと美琴の言葉通り、誰もこっちを見ていない。 プールで遊んでいた時も、途中から美琴の方に神経を集中していたので気づかなかったが。 二人の周りはカップルだらけ。というよりいちゃついているカップルしかいない。 上条は思い出す。 『お気楽な大学生達の定番デートコースなのよ』 定番デートコースでは、カップル達の行動も定番通りだった。 すなわち、 「ここじゃ恥ずかしがってたら負け、他のカップルに見せつけてなんぼって訳。……はい、乾いたわよ」 美琴は上条の髪の毛に指を差し入れ乾き具合を確かめながら、 「だからアンタも私を膝の上に乗せたくらいでオタオタしないの。あっちなんかもっと大胆な事してるわよ? ……ほら」 美琴が指差すその先に上条が視線を向けると、 「―――――――――――――――――――――――――!」 もはやここには絶対書いてはならないほどいかがわしい行動を起こしているカップルの姿に 「み、御坂! 膝から降りろ! いや降りるな! つかお前もあんなの見ちゃいけません!」 穴があったら隠れたいがそんなものはないので、ひとまず美琴の体を遮蔽物代わりに自分の視界からヤバいものを遠ざけようとする上条。 カップルにあてられてもうダメだ今度こそ脳が冒されるとビクンビクン体を震わせた上条に抱きつかれ、あまつさえ胸の辺りに上条が頭を突っ込んでいるので笑って良いんだか泣いて良いんだか怒って良いんだか複雑な表情の美琴。 上条は今にも涙腺が崩壊しそうな顔で美琴の胸元から顔を上げると、 「……なあ御坂。俺を煽らないでくれよ。そりゃ俺はお前が思うような理想の彼氏とは違うかも知んねーけど、俺にだって一応考えってもんがあるんだからさ。俺達は節度あるお付き合いを心がけてんのに、彼女のお前が真っ向からそれに歯向かってこんなもん見せて、俺を煽ってどうすんだよ?」 美琴はキョトンとした顔で、 「……そんな事言ってんのアンタだけなんだけど?」 「……は?」 目を丸くする上条。 美琴はやれやれと言った表情で、 「私からすればアンタは一応年上、付き合うのに何の制限もないのよね。アンタが勝手にこっちに中学生中学生ってごちゃごちゃ変なもんを押しつけてんじゃない。アンタの配慮や気遣いには感謝してるけど、それって私が遠慮しなきゃいけない理由になるの?」 「なっ……ちょ、ばっ、お前、自分が何言ってるか分かってんのか? お前言ってる事メチャクチャだぞ!? 殊勝なことを言っていたお前はどこへ行った? 夏の魔法とか何とかは何だったんだよ??」 「……ああでも言わないと、二人でプールに来たのにアンタは素っ気ないままなんじゃないかなって。周りはカップルだらけなのに彼氏に放置されるなんて、あんまりでしょそんなの」 美琴は上条の膝に乗ったまま、上条の頭をやや強引に胸の前でかき抱く。 美琴がまだ義務教育中の身だからと考えて上条は一線を引いているが、美琴からすれば上条の臆病のツケを払わされているように思えるのかもしれない。 そこまで考えてから、上条は長く大きなため息をついて抵抗を止めた。 「……………………悪りぃ」 「何でアンタがそこで謝るのよ。アンタは別に悪い事してないでしょ? アンタから見れば私は中学生で、その辺りの話は前にもさんざんアンタから聞かされてんだしさ」 どうせ片思いが勝手にやってる事なんだからアンタは謝らなくて良いの、と呟く美琴。 もしかしたら、 美琴が上条の手を引っ張って先を急いでいるのではなく、 上条が美琴を待たせているのでもなく、 上条の考えだけが正しい訳でも、美琴だけが正しい訳でもない。 二人の行く道に明確な答えはまだ出せず、上条の心の中に残る正体不明のわだかまりも解決できない。 上条は胸の内にくすぶったもやもやを抱えたまま苦し紛れに、 「御坂。……言っとくけどこう言うのは今だけ、ここでだけだからな」 「私が素直に聞くと思う?」 美琴の茶色の瞳が上条を見下ろす。 説得はあきらめた。 きっと口先の言葉では美琴に勝てない。 上条は観念したように美琴を抱きしめる。 「まったく。人の気も知らずに好き勝手しやがって」 ここにいる間だけ使える、夏の魔法を言い訳にして。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3459.html
羽根つき 上条と美琴の実家は近所にある。付き合い始めたばかりの2人が一緒に里帰りするのは当然の帰結だろう。周りから「最高のケンカップルで最強のバカップル」という称号を頂戴している2人は、案の定実家に帰った後もバトルを繰り広げていた。「くらえっ!!!! 」「甘い!!!!」カコーン、カーン羽根突きだ。会場は近所の路上。公式ルール(?)通り墨まで用意している。着物を見せて、お互いを誉めた2人。初詣までの時間潰しの予定だった。だが、ここで2人の負けず嫌いが炸裂したのである。「はやく、諦め、なさいよ!!」「そっちこそ、降参、しろ、よっと!!」かれこれ10分打ち合っている。お遊びじゃなくなった。年明けそうそう負け戦は勘弁願いたい。ここで負けたら一年中バカにされるに決まってる。美琴はわざわざ化粧をやり直すめんどくささも手伝い、勝負は白熱してしまっていた。(まったく、しぶとい!!)互いに慣れない着物。体力は予想以上に削られていた。打開策を考える美琴は、必死に頭をひねる。そんなとき視界に入ったのは、なにかを思いつき、ニヤリと暗く笑う彼氏の顔。疑問を抱いた次の瞬間、とんでもない攻撃が美琴を襲った。「美琴、大好きだ!!」カコーン「ふにゃ!!?」上条の告白とともに羽が飛んでくる。あわてて打ち返すが、動揺してボロボロのフォームで打ち返した羽は、ただのアシストパスにしかならない。余裕で打ち返す上条の口がまた動く。「みこったん可愛い!!」カン!!(あんにゃろ!!)真赤になった顔が、怒りと嬉しさでへにょへにょになる。ここにきて精神攻撃。しかし、やられっぱなしは趣味ではない。「わたしも当麻のこと大好き!!」カコンッ「ぶふふぅっ!!」よしっ!!体勢が崩れたえーい、ざまーみろ!!オーライオーライ!!「当麻!! カッコいい!!」カン!!「にゃろっ!! 美琴の抱き締め具合最高!!」カコン!!「にゃっ!! ……当麻の胸板たくましい!!」カンッ!!「美琴の料理がオレ好みすぎて辛い!!」カン!!「にゃにゃっ!! …ちょろっとと、当麻のご飯もぜっ、絶品」かっこーーん「美琴のキスエロい!!」カンッ!!「えぇっ!! ととっ、とう、まのキスもエッチ!!」かーーん……さてさて、皆様もうお気づきかも知れないが、優劣はもうはっきりしている。顔は真っ赤だが余裕のある上条に対し、美琴は恥ずかしさと嬉しさと悔しさと切なさとやっぱり嬉しさで顔面崩壊。涙まで浮かんでいる。 そろそろとどめだ。「美琴と一緒にいれて幸せだ!!」カン!!「えっ!! ふ、ふにゃ、あわわ」かーーーん羽は、空高く舞い上がり、落下地点では、最近有名なテニス選手と見紛う(注:美琴ビジョン)フォームの上条が構えている。彼は、そっと彼女の名を呼んだ。それだけでもう美琴は満たされてしまった。何度もいうが、路上で羽根つきのバトル中である。体が固まった美琴に、上条が必殺の一撃を放った。「愛してる」ドガーンという効果音を背後に、上条の口から出た吹き出しからさらに矢印が伸び、美琴のハートを射ぬいた。効果は抜群である。ひょろひょろと崩れ落ちる美琴の頭に、時間差でようやく羽が落ちた。コンッ、なんて間抜けな音もする。「がーはっはっ!! 悪逆非道となじるがよい!! 勝てば官軍なのじゃー」悪い顔して彼女に近づく彼氏。手にはきちんと墨を吸った筆を握っている。上条は敗者を見下ろした。「ぃ…いじわる……」運動の後で息も乱れ、真赤に顔を染め、少し意識を朦朧とさせ、涙目でこちらを見上げるonly my レールガン(所詮上条の頭脳)背筋がゾクゾクと震えた。しかし、ここで狼にはなれない。たまたま旅掛さんと遭遇したら死んじゃう。しぶしふ屈伸の要領でしゃがむ。これでも美琴の顔は少し目線の下だ。「さて、楽しい落書きの時間だ。目をつむりなさい」少し上目遣いで見ていた彼女が目を閉じた。さて、楽しい罰ゲーム。「…………」ムチューーーーーー…………「ぷふぁ、なんでキスしてんのよ~~~~」「す、すみません、我慢ならんでした」「もっとしろバカ~~~~」「え、あぁ、はい」ムチューーーーーー…………。さて、この後、運よく旅掛に遭遇せず、罰ゲームは罰ゲームで完遂。怒りに燃えた美琴が再戦を要求。結局6回戦引き分け。互いに墨を落とすために帰宅したら、両者とも額に「愛してる♥」の文字があるのにはじめて気づき2人とも悶絶。初詣はどちらも真赤に顔を染め、互いを見ることができなかったとか。もう1回除夜の鐘ついてこいや!!!!
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/258.html
小ネタ 超電磁砲原作漫画第一巻85ページの空白 「逃げんなーーッ!!」「オマエっ今っ…今の直撃してたら普通死ぬぞっ!!」「どうせ効かないんでしょーがぁ!!私だって今まで人に向けてこんなに能力使った事ないわよっ」「何で俺だけ~~~っ!?」「ちゃんと私の相手をしろーーっ!」「不幸だーっ!!」「で?いつまで追っかけ回してくるんだ~!?」さすがの上条さんもこれ以上は辛いですよ?」「じゃあ、さっさと止まりなさいよーっ!」上条は熟練されたペースで美琴を振り切ろうと懸命に努力するが美琴はそこらの不良とはワケが違う、一定の距離でピッタリ付いてくる。上条はこの調子じゃ「振り切るのは厳しい」と判断し、路地に潜り込み右手を構え後ろに振り向く「ストーーーップ!!!」「えっ…?」二人とも長時間一定の速度で走り続けてたので息が荒い「これ以上はムダだと思うぜ…オマエは俺に追いつけない」「アンタも私を振り切れなかったじゃない…」「ああ、それは間違いねぇ…ただ俺にはこの右手がある」「…っ!」美琴にとって正体不明の右手は恐怖と脅威でしかないのだ上条は半ばハッタリ、これで引いてくれればという気持ちでの発言だ「(効いた…か?)」「(手には電流を流して効かなかった…。だけどその本体…そう体に直接流せば…っ!)じょ、上等よ。やってやろうじゃない…今度こそアンタを仕留める!」「何度やってもムダだって言ってんだろうが…この右手が…っ!?」美琴は素早く動き上条の懐に潜り込む、上条にとっては不意打ち中の不意打ちいきなり潜り込まれたらさすがに防ぐと言う対応は出来ないが、一歩引いて「もっとこい!」と言わんばかりの対応を取った「(今度こそ取った…!」美琴は勝利を確信した「これならコイツも防げない」もう完全に射程圏内に上条を抑えた…これは紛れもない事実だったが…上条は一か八かという気持ちで美琴を抱き寄せるように自分の胸の中に抑え込んだのだ、電流は…流れてこない。もちろん右手で打ち消したわけでもない、上条が掴んでいるのは美琴の肩なのだから。「…なっ!」「(ふぅ…助かった…か)」「(な、何よいきなり…)」美琴は声に出せなかった、というより出なかったのであるかれこれこの体制が1分以上続いてるが両者は沈黙―――上条が美琴の肩を持って体から引き離す「続きは今度…だから今日のところは…なっ?」「続き…?ア、アンタは何考えてんのよっ!!!」「じゃ、そういうわけなので…失礼しますッ!!」「ちょ、アンタ待ちなさいってば!!」美琴は上条を姿が見えなくなるまで追いかけた―――見守るようにソラも明るくなって来た頃美琴はようやく寮に到着した「お帰りなさいませお姉様寮監の目を誤魔化すのは大変なのですから、夜遊びは程々のして欲しいですのー」「べ、別に遊んでた訳じゃないわよ…」美琴は色んな意味で疲れ果てている「登校時間まで寝かせてもらうわ朝食はパスするからテキトーに理由言っといて」「分かりました、では良い眠りを…」美琴はベッドに倒れこむ「アンニャロウ…いつか…かなら…ず」「また“あの殿方”ですの?」「夜通し追いかけっこするなんて非常識な行動をお姉様がとられるなんて…お姉様ご自身は自覚されてないようですが、黒子にはその方との諍いを楽しんでおられるように見えますのよ」「わたくしとしては少々嫌な予感がしますけど…まさかお姉様に限って…ねぇ」美琴は夢の中でも上条当麻を追い掛け回す、まるで少しの時間でも長く一緒に居たいと言うように――――――完―――
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/203.html
2スレ目ログ ____ ________________ 2-34 D2 ◆6Rr9SkbdCs Safest_Place_to_Hide 2-46 ぐちゅ玉(1-337) そして親衛隊は釘をさす 2-63 寝てた人 ◆msxLT4LFwc 当麻と美琴の恋愛サイド ―幸福の美琴サンタ― 6 2-98 ぐちゅ玉(1-337) 天草式MMR 2-107 2-107 小ネタ よくあるソレなショートストーリー 1 2-113 2-107 小ネタ よくあるソレなショートストーリー 2 2-117 小ネタ 科学サイドと魔術サイドの戦争が終わり数年後 2-129 小ネタ っつか御坂も風邪なんてひくんだな 2-132 2-107 小ネタ よくあるソレなショートストーリー 3 2-140 カミサカ ◆somJVmVTuY 小ネタ そんな足じゃ寮まで帰れねーだろ? 2-150 寝てた人 ◆msxLT4LFwc 当麻と美琴の恋愛サイド ―幸福の美琴サンタ― 7 後"日"談その1 2-162 D2 ◆6Rr9SkbdCs 小ネタ 上条さんがまた入院しました。 2-167 2-164 一端覧祭 1 2-178 ぐちゅ玉(1-337) 心を奪われ、射ぬかれ、包まれて 2-196 D2 ◆6Rr9SkbdCs とある二人の教育実習(キンダーガーテン) 2-213 スピッツ ◆Oamxnad08k もしも美琴が上条の妹だったら 2-232 ∀(2-230) とある帰り道 2-253 D2 ◆6Rr9SkbdCs 小ネタ 大覇星祭、閉会式直後。 2-261 ぐちゅ玉(1-337) 橋の下の決闘・上条vs黒妻 2-271 2-164 一端覧祭 2 2-288 寝てた人 ◆msxLT4LFwc 当麻と美琴の恋愛サイド ―幸福の美琴サンタ― 8 後"日"談その2 2-295 寝てた人 ◆msxLT4LFwc 当麻と美琴の恋愛サイド ―帰省/家族― 1 プロローグ 2-301 小ネタ あの鉄橋 2-303 2-107 小ネタ よくあるソレなショートストーリー 4 2-308 2-164 一端覧祭 3 2-323 ぐちゅ玉(1-337) とある両家の元旦物語 1 プロローグ 2-326 ぐちゅ玉(1-337) とある両家の元旦物語 1 前編 2-337 ∀(2-230) 嫉妬する上条さん(美琴視点) 2-364 2-107 小ネタ よくあるソレなショートストーリー 5 2-392 D2 ◆6Rr9SkbdCs 小ネタ 上条さんのお見送り 2-394 2-164 一端覧祭 4 2-416 ぐちゅ玉(1-337) とある両家の元旦物語 2 中編 2-431 ∀(2-230) やくそく 2-446 2-107 小ネタ よくあるソレなショートストーリー 6 2-450 D2 ◆6Rr9SkbdCs Two_of_us 2-476 スピッツ ◆Oamxnad08k 記憶喪失 2-503 2-502 小ネタ 超電磁砲原作漫画第一巻85ページの空白 2-540 腹黒タヌキ(2-539) 小ネタ 美琴さんのイマジンブレイカーのマネ 2-545 2-502 小ネタ 女の子の気持ちが分かる本 2-552 ぐちゅ玉(1-337) とある両家の元旦物語 3 後編 2-557 D2 ◆6Rr9SkbdCs 小ネタ コロッケを作ります。 2-560 2-560 only my 美琴 1 2-581 スピッツ ◆Oamxnad08k 男なら一度は憧れるアレ 1 2-602 ∀(2-230) 不幸を背負って 2-617 ∀(2-230) バイト生活 1 0日目 2-618 ∀(2-230) バイト生活 1 1日目 2-632 2-631 少女の奏でる旋律は―― 1 2-644 2-560 only my 美琴 2 2-666 2-560 only my 美琴 3 2-677 2-676 とある二人の休日 2-698 ぐちゅ玉(1-337) 美琴と美咲 2-713 七国山の栗鼠 ◆t9BahZgHoU とある恋人の日常風景 1 序章 新たな物語の始まり ~ 二人の想い 2-714 七国山の栗鼠 ◆t9BahZgHoU とある恋人の日常風景 1 第一章 お姉様 ~ 十一月某日 2-721 豚遅(1-892) とある学園の執事喫茶 2 とある学校の執事喫茶 2-736 2-560 only my 美琴 4 2-753 ∀(2-230) 嫉妬する上条さん(上条視点) 2-764 SAS(2-763) 俺の名を言ってみろ! 1 2-772 2-631 少女の奏でる旋律は―― 2 2-785 七国山の栗鼠 ◆t9BahZgHoU 小ネタ ゲーセンdeデート 2-790 2-164 一端覧祭 5 ナイトパレード 2-800 ぐちゅ玉(1-337) とある両家の元旦物語 4 後編 2-817 ◆pAn3AKtpUw X-DATE 8 2-836 スピッツ ◆Oamxnad08k 男なら一度は憧れるアレ 2 2-848 まっくろくろすけ(2-845) 小ネタ BAD END 2-869 SAS(2-763) 俺の名を言ってみろ! 2 2-890 腹黒タヌキ(2-539) ・・だからお前は笑っていて良いんだよ・・ 2-909 ◆pAn3AKtpUw X-DATE 9 アフター 2-929 2-560 only my 美琴 5 恋人編 2-943 D2 ◆6Rr9SkbdCs 小ネタ 本日はバレンタインデー 2-947 ぐちゅ玉(1-337) 初春の!ふにゃふにゃハッキング! 2-959 2-958 小ネタ もし上条さんと美琴が同じ学校の先輩、後輩だったら 2-975 D2 ◆6Rr9SkbdCs 舞い落ちる雪のように Adieu_l Hiver. 2-992 ∀(2-230) バイト生活 2 2日目 2-1000 ◆pAn3AKtpUw 小ネタ Go to part3 ▲